モーツァルト ”ニ短調協奏曲”

25人の豪華ピアニストによる聴き比べ

AAFC例会資料

2011/9/11

担当 : 高橋 敏郎



モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調は、彼が最も得意とした協奏曲分野における最初の短調による作品。第一楽章は暗くデモーニシュな雰囲気あり。時恰もパトロンだっザルツブルグ大司教と衝突。余儀なくウィーンで独立せざるを得ない状況だった彼の決意表明のような作品だったが、それまでの明るく耳に心地よい長調の曲のように当時のウィーンの聴衆から全面的に支持されることはなく、晩年に向かって”没落への道”へとつながった契機ともいわれる。19世紀以降この分野では最高傑作の一つとして超人気曲にランクされているが・・・。
今回は、主に第2楽章(楽章は変ロ長調)ロマンツェの主部を中心に古今の名ピアニストたちによる聴き比べをしてみたい。(以下の順番は、最初のハスキルと最後の内田光子以外は ほぼピアニストの生年順とした)

1.クララ・ハスキル(1895-1960)マルケヴィッチ指揮ラムルーO  (r.1960)
  モーツァルトを弾くために生まれてきたようなハスキルによる死の直前60年11月、パリでの生涯最後  のスタジオ録音。12月7日、演奏旅行の途次、ブラッセル駅の階段で転落、その夜、病院で逝去した  。 この曲を得意としライブを含めると10数種の録音を残したが、4種ある正規録音中、これが唯一  のステレオ録音。
2. ブルーノ・ワルター(1876-1962) 指揮ウイーンPO (r. 1937) ワルターによる弾き振り。第二次大戦前  における本曲の代表的名演。次のフィッシャーの剛に対しワルターは柔といわれたが、テンポは意外  に速い。
3. エドウィン・フィッシャー(1886-1960) 指揮ロンドンPO (r.1933) 本曲の歴史上初録音として著名。
4. アルトュール・ルービンシュタイン(1887-1982)ジュリーニ指揮フィルハーモニアO (r.1961) 意外に彼  はモーツァルトを得意とし若い頃からよくコンサートでも取り上げた。
5. ワルター・ギーゼキング(1895-1956) ロスバウド指揮フィルハルモニアO(r.1953) 戦前からモーツァル  ト弾きの草分け的存在として鳴らしたギーゼキングによる演奏。
6. マリア・ユーディナ(1899-1970)ゴルチャコフ指揮全ソ連RSO (r.1948)
生前西欧で演奏したことのない旧ソ連の国宝的存在ユーディナによるモーツァルト。独裁者スターリン  が彼女のモーツァルトを殊の外愛聴したことでも知られる。
7. マルセル・メイエル(1899-1958)エウィットCO (r. 1952)
フランスの閨秀ピアニストによる純フランス風演奏。エウィットは戦前を代表するフランスの名奏団カ   ペー四重奏団のメンバーでもあった。
8. イヴォンヌ・ルフェビュール(1904-86)フルトヴェングラー指揮ベルリンPO (r.1954) 堂々としたピアノ   伴奏付き交響曲といった感あり。ベートーヴェン同様、フルトヴェングラーもこの曲を愛したが、本録   音は彼の死の年54年夏、最後の演奏旅行でのライブとなった。ルフェビュールはフランスの閨秀ピ    アニスト。
9. スビャトスラフ・リヒテル(1915-97)ヴィスロッキ指揮ワルシャワPO (r.1959)説明要なき”ロシアの巨人” 10. アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(1920-95)オリツィオ指揮”ガスパロ・ダ・サロ” O (r.1966)
ミケランジェリには8種ほど同曲異録音があるが、これはバチカン宮殿で法王臨席下の御前演奏の   録音。
11. フリードリッヒ・グルダ (1930-2000)指揮北ドイツRSO (r. 1993) ウィーン派の才人グルダによる数多   ある弾き振りの一つ。一般的にはアバド指揮VPOとの74年録音が彼の代表盤とされている。
ー以上は物故ピアニストー

12. アルフレッド・ブレンデル(1931-)マッケラス指揮スコットランドCO(r.1998)
13. エリック・ハイドシエック(1936-)ヴァンデルノート指揮パリ音楽院O(r.1962)
  以上の二人はウィーン派とパリ派、夫々の奏法を代表するピアニスト。何れもモーツァルトを得意とす  る。
14. ウラディミール・アシュケナージ(1937-)指揮フィルハーモニアO (r. 1983)
15. マルタ・アルゲリッチ(1941-)ラビノヴィッチ指揮パドヴァ・エ・デル・ヴェネトO (r. 1998)
16. マウリツィオ・ポリーニ(1942-)指揮ウィーンPO  (r. 1981)
17. ダニエル・バレンボイム(1942-)指揮ベルリンPO (r. 1986)
  アシュケナージ以下の4人は戦後を代表する同世代。アルゲリッチだけ指揮を当時の友人に任せて   いるが、他は何れも自身の弾き振り演奏。本曲は7歳の神童アルゲリッチがオケをバックに初めて    弾いた協奏曲でもあった。
18. マリア・ジョアン・ピリス(1944-)ジョルダン指揮ローザンヌCO(r. 1977)エッシェンバッハなどとともに現  代の代表的モーツァルト弾きの一人。  
19. ジョス・ヴァン・インマーゼール(1945-) Fp&指揮アニマ・エテルナ (r.1990)
  クリストファー・クラークによって再現されたアントン・ヴァルター製フォルテピアノ(1785年にモーツァル  トに寄贈され現在ザルツブルグ・モーツァルト博物館に保管中)にて演奏。古楽演奏では、80年代以   降、ビルソン、ギボンズ、カイト、メルヴィン・タン、V・ソフロニツキーなど実に多種多様。
20. アンドラーシュ・シフ(1953-)ヴェーグ指揮カメラータ・アカデミカ(r.1989)
21. ミハエル・プレトニョフ(1957-)指揮ドイツ・カンマーPO (r.1995)
  現在第一線で活躍中の才能豊かな中堅による演奏例二つ。
22.  ライフ・オヴェ・アンスネス(1970-)指揮ノールウェイCO(r.2007)
23.  エフゲニ・キーシン(1971-)指揮クレメラータ・バルティカ(r.2008)
24. マーティン・シュタットフェルト(1980-)ヴァイル指揮北ドイツRSO (r.2005)
  若手による3人3様。キーシンはゆったり弾いているが、シュタットフェルトやアンスネスはテンポが速   い。
25. 内田光子(1948-)指揮クリーヴランドO  (r.2010) 内田は同じクリーブランドOと組んで録音したモーツ  ァルトの協奏曲第23&24番のCDによって2011年の第53回グラミー賞(インストゥルメンタル・ソリスト部  門)を獲得した。1985年のテイト/イギリスCOとの共演(これも好演)以来、25年ぶり2度目の公式録音  。今回は弾き振りだが、当代随一のモーツァルト弾きによる名演。

上記以外で注目すべき本曲の録音を 以下 気がつくままに30点ほど列記してみます。

アルトュール・シュナーベル(p)ジュスキント指揮フィルハーモニアO (r. 1948)
マイラ・ヘス(p) ワルター指揮ニューヨークPO (r. 1956)
クララ・ハスキル(p) パウムガルトナー指揮ウィーンSO (r. 1954)* LPのみ
クララ・ハスキル(p) カラヤン指揮フィルハーモニアO (r. 1956)
ミエチスラフ・ホルショフスキー(p)ワルドマン指揮ムジカ・エテルナ(r. 1962)
ルドルフ・ゼルキン(p)セル指揮コロムビアSO(r. 1961)
クリフォード・カーゾン(p) ブリテン指揮イギリスCO (r. 1970)
リリー・クラウス(p)ボスコフスキー指揮ウイーン・コンチェルトハウスCO (r.1955) 
ジャン・ドワイアン(p)ミュンシュ指揮パリ音楽院O (r.1942)
ゲオルグ・ショルティ (p&指揮)イギリスCO (r.1989)
モニク・ド・ラ・ブルショルリ(p)パウムガルトナー指揮ザルツブルグ・モーツァルテウムO(r.1961)
イングリット・ヘブラー(p)ガリエラ指揮ロンドンSO (r.1965)
ゲザ・アンダ (p&指揮)カメラータ・アカデミカ (r.1965)
アンネローゼ・シュミット(p)マズア指揮ドレスデンPO (r. 1972)
フリードリッヒ・グルダ (p)アバド指揮ウィーンPO (r. 1974)
アリシア・デ・ラローチャ(p)C・デイヴィス指揮イギリスCO (r. 1993)
アンドレ・プレヴィン (p&指揮)ロンドンSO (r.1975)
弘中 孝(p)マタチッチ指揮NHK SO (r. 1975)
ステイーヴン・コワセヴィッチ(p)C・デイヴィス指揮ロンドンSO(r. 1978 )
マレイ・ペライア (p&指揮)イギリスCO (r.1977)
ジョン・ギボンス (Fp) ブリュッヘン指揮18世紀O (r. 1986)
マルコム・ビルソン(Fp)ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(r. 1987)
リチャード・グード (p&指揮)オルフェウスCO (r. 1996)
キース・ジャレット(1945-)デニス・ラッセル・デイヴィス指揮シュトゥットガルトCO (r. 1998) 
クリスティアン・ツァハリアス(p&指揮)ローザンヌCO (r. 2007)
白神典子(しらがふみこ)フルート/ヴァイオリン/チェロによる室内楽伴奏(r.2003)
ヴィヴィアーナ・ソフロニツキー(Fp)カロラク指揮ムジカ・アンティクァ・コレギウム(r.2006)
ピオートル・アンデルシェフスキー(p&指揮)スコットランドCO (r. 2005)

ラルス・フォークト(p)ボルトン指揮ザルツブルク・モーツァルテウム O (r. 2008)

以 上