ホロヴィッツがモーツァルトのピアノ協奏曲を弾く? 信じ難い事ですが、世紀のピアニストと呼ばれた
ホロヴィッツが亡くなる2年半ほど前に、最初で最後(?)のモーツァルトのピアノ協奏曲を弾いたのです。
それもコンサートではなくスタジオ録音で! ピアノ・ソナタはリサイタルで何曲か演奏・録音しています
が、協奏曲となると相手のあることですから別問題です。 (Holowitz: 1903.10.1 ~ 1989.11.5 86y)
本日ご覧いただく演奏は、1987年3月 カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団
伴奏によりミラノ・アバネラ・スタジオで録音・録画されたもので、1990・10・6 NHK芸術劇場で
放映されたものです。(VHS録画) 録音はグラモフォンからCDで発売されています。
映像は、ホロヴィッツの葬儀から始まり、スタジオ録音風景に移行します。楽章の録音毎に休憩が入り、
その間の歓談風景も見ものです。ジョークの上手さ、茶目っ気などが随所に見られ、ホロヴィッツの人柄が偲ばれます。大指揮者ジュリーニもホロヴィッツの前では借りてきた猫のごとく従順です。(映像時間52分)
この演奏の中で特に注目すべきは、第1楽章のカデンツァにモーツァルトのものではなくブゾーニのものを演奏している事でしょう。著名なピアニストの殆どはモーツァツトのカデンツァを弾いています。
映像の中でも記者達に質問されていますが、ホロヴィッツは次のように語っています。
「モーツァルト自身のカデンツァは出版されていますが、それは彼のあまりピアノの演奏に上達して
いない女性のお弟子さんの為に書いたものらしく、モーツァルトの他のピアノ協奏曲の為の自身のカデンツァに比べると平易です。ブゾーニ〈1866~1924〉のカデンツァは、ピアノ演奏家、作曲家、そして真に偉大な音楽精神の持ち主であったブゾーニの才能を反映して、きわめてピアノ的、高度に音楽的で、趣味の良さでも最上です」 (CDのライナーノートより)
1..カデンツァの聞き較べ
モーツァルト: ポリーニ(p) ベーム(cond) ウイーンpo (1976)
ブゾーニ : ホロヴィッツ(p) ジュリーニ(cond) ミラノ・スカラ座o (1987)
2.ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488
Horowitz Pollini Haskil
第1楽章 Allegro (10:23) (11:11) (11:14)
第2楽章 Adagio (5:36) (7:12) (6:26)
第3楽章 Allegro assai (8:00) (8:03) (8:17)
3.余談 エレーヌ・グリモーとクラウディオ・アッバードの確執
2011年5月29日 イタリア・ボローニアで、アバド率いる
モーツァルト管とグリモーは、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番の録音で共演することになった。
グリモーは若き日に聴いて感銘を受けたホロヴィッツ弾くブゾーニのカデンツァを演じた。だが、
アバドはこのブゾーニ版が気に入らず、モーツァルト版を要請したが、グリモーは「どのカデンツァを
選ぶかはソリストに権限がある筈」と譲らず、両者は決裂し、録音はお蔵入りとなった(とさ)。
(レコード芸術 2012年1月号 より抜粋編集)
以 上