レコード(CD,DVDを含め)による鑑賞の最大の楽しみの一つは、自分の好きな曲を 各種演奏で比較しながら聴くことではなかろうか。
今回は モーツァルトのピアノ曲のなかでも最も人気のある作品、ピアノ・ソナタ第11番 イ長調 K331 「トルコ行進曲つき」を例に聴き比べてみたい。
この3楽章からなる曲、実はピアノ・ソナタという名称にも拘らず、どの楽章にも所謂(いわゆる)ソナタ形式は採用されていない。
即ち 第一楽章は優美な主題とその6つの変奏曲から成る変奏曲形式。第二楽章は中間部にトリオをもつメヌエット形式。第三楽章(終楽章)は「アッラ・トゥルカ(トルコ風に)」と指示されていることから通称「トルコ行進曲」(Turkischer Marsch) と呼ばれ親しまれているフランス風な変則的ロンド形式(自由な三部形式ともいえる)で 構成は
A - B - C - B - A - B' - コーダとなっている。
永い間 本曲はモーツァルトが「青春の旅」の途次 亡くなった母マリア・アンナの死とも関連づけられ1778年、パリで作曲されたとされてきたが、近年の研究では1783年にウィーンもしくはザルツブルクで作曲されたとする説が有力。その年はオーストリアがトルコ軍によるウィーン包囲戦に勝利して以来、ちょうど100年目に当り、それを記念して作曲されたという説とも符合する。
最初は 決してスタンダードとはいえない超スローテンポなグレン・グールドの全曲演奏を聴いていただくが、時間の関係もあるので 引続き 第三楽章「トルコ行進曲」に限定して各種ピアニストによる演奏を出来るだけ多く聴き比べてみたい。特にそのテンポの違いに注目願いたく。
(時間の関係で 下記15種全てをプレーすることはできませんが、できるだけ多くお聴き頂くようにいたします。但し一応全て持参しましたのでご要望があれば外したものの演奏に応じることは可能です。尚、下記の配列順番は録音年代順になっていますが、演奏は必ずしもこの順番通りとは限りませんので予めご承知おき下さい。)
A. 全曲 グレン・グールド(1932-82) : (SONY) (r.Dec.1965&Aug.1970)
(第一楽章 7:56/第二楽章 6:36/ 第三楽章 4:03)
B. 第三楽章(「トルコ行進曲」のみ)
1 |
ワルター・ギーゼキング(1896-1956) |
(EMI) |
(r. 1953) |
(3:45) |
2 |
マルセル・シャンピ(1891-1980)
|
(EMI) |
(r. 1955) |
(2:19) |
3 |
ウィルヘルム・バックハウス(1884-1969)
|
(DECCA) |
(r. 1955 ) |
(3:12) |
4 |
ウラディミール・ホロヴッツ(1903-89) |
(SONY) |
(r. 1966-Live) |
(4:09) |
5 |
リリー・クラウス(1905-86)
|
(SONY) |
(r.1967) |
(3:12) |
6 |
マリア・ジョアオ・ピリス(1944- ) |
(DENON) |
(r.1974) |
(4:28) |
7 |
アルフレッド・ブレンデル(1931- )
|
(PHILIPS) |
(r.1975) |
(3:19) |
8 |
フリ-ドリッヒ・グルダ(1930-2000)
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(AMADEO) |
(r. 1977) |
(3:23) |
9 |
アンドレアス・シュタイアー (1955- )
|
*(FP)(HM) |
(r. 1986) |
(3:38) |
10 |
ユゲット・ドレフュス (1928 - )
|
* (FP)(DENON) |
(r. 1990) |
(4:01) |
11 |
マレイ・ペライア (1947- )
|
(SONY) |
(r.1991) |
(3:24) |
12 |
イーヴォ・ポゴレリッチ(1958- )
|
(DGG) |
(r. 1992) |
(3:25) |
13 |
ファジル・サイ(1970- )
|
(WARNER) |
(r.1997) |
(2:46) |
14 |
イリーナ・メジューエワ (1975- )
|
(DENON) |
(r. 1999) |
(4:16) |
番外 |
ファジル・サイ(1970- ) :(ジャズ・ヴァージョン)
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(NAIVE) |
(r. 2006) |
(1:40) |
* (FP)はフォルテ・ピアノの略
因みにこの第三楽章、楽譜上の速度指定はアレグレット(やや速く)。モーツアルトの時代には未だテンポを正しく測るメトロノームは発明されていなかったが、アレグレットは 4分音符=130前後, 即ち1分間に4分音符を130回ほど奏すべき速度ということになる。但しこの速度指定は厳密に演奏者を規制するという性質のものではなく あくまで一つの目安に過ぎない。最終的には演奏者の裁量に任されることになるのである。
最後に 勿論 イン・テンポかどうかを含め テンポの違いだけが重要なのではなく、この「トルコ行進曲」の場合、各楽章におけるフレージングや更に細かく一つの音の表情に係るアーティキュレーション、或は数多く現れる装飾音が 夫々の演奏者によって どのように弾かれているかなど 独自色を充分に出せる注目点が多々あるのも この曲の素晴らしい魅力というべきであろう。