音楽および電気の密接な関係

AAFC例会資料

2014/09/14

担当 : 宇多 弘

 

はじめに
毎日、何気なく聴いている音楽ですが・・・電気作用の助けを借りて聴取・鑑賞しています。
音楽および電気の関係は、20世紀初頭から始まり、既に100年は経ているでしょう。
そして
演奏から録音録画から再生と、色々な局面にて電気作用が利用される訳です。
音楽および電気の関係はますます深まりつつあることを意識して、将来を見通す必要があるな、と考えることが 「なぜ判り切ったことを話題にするのか」 という質問への報告者の答です。 今回は楽器および電気の関係を主にレビューしました。 (以下一部にてwikipedia を参照しました。)

 

1. 音楽と電気・・・楽器の世界から

<動力利用の楽器>
音楽関係での動力利用としては、紀元前にすでに人力による{フイゴ}にてパイプ・オルガンを駆動し、または水力によって空気を送り込む{水オルガン}も現れたとされています。
そして19世紀中頃までは主に人力によるフイゴにて駆動していました。
19世紀後半から人力に代えて蒸気機関が使われ、20世紀に入る頃から電気モーターの送風装置が登場して大きな風圧を容易に得る事ができるようになりました。
これは電気楽器には分類されませんが、送風機能を電動化したので、電動(式)オルガンとの名称があるとされています。 電動楽器と表現すれば正しいのかもしれませんが、未定義です。
また、ヴァイブラフォンの共鳴管上部の羽根を電気モーターにて開閉して揺らぎを起す動力利用例がありますが、当該楽器は鉄琴の一種であり打楽器であると分類されています。

<< “Fiesta” Fiesta/ Victor Feldman (#1) 4:44 1984 VDP-104 >>

<電気楽器>
楽器の振動を電気信号として取り出し、何らかの処理を行う仕組みの楽器と定義されています。
まず思い当たるのが、共鳴胴がなくなったソリッド・ギター、ハワイアン用のスティール・ギター、エレキベース、アップライト電気ベース等です。 アコースティック・ギターに電磁ピックアップを装備したものも同様です。 弦の振動を磁気的に拾って増幅し PA を併用して鳴らします。
電子ドラムと言うのがありますが、叩くとセンサー部分が動作するもので、 その電気信号をシンセサイザー等に伝えるため、キー・コンタクトのみの機能であり、電気楽器に属します。
特殊なものでは、ハモンド社にて開発された{トーンホイール}という円板に磁石を並べ、電気モータで回転してヘッドで磁気変化を検出し音源とする <回転電磁式信号発生装置> があります。
その信号をアンプで拡大してスピーカから音を出す鍵盤楽器が1934年につくられました。
音源用の真空管発振器は安定度を得るべく開発中にて、この発生装置の実装を先行させたようです。 これがハモンド・オルガンの元祖であり、厳密には電気オルガンに分類されます。

<< “Honey Samba” On solid ground/ Larry Carlton (#9) 5:06 MCA 22P2-2712 >>

<電子楽器>
1919年にロシアの発明家テルミンが発明した <テルミン> (Theremin {英}) が世界初の電子楽器とされています。 二つの真空管発振回路を用意し、人体を近づけると静電容量が変化して唸り音 (ビート) が発生するので、それを楽器としたものであり、安定性を得るのが相当困難であり演奏には熟練を要するとあります。
これを、より安定化させて演奏に耐えるべく改良され実用化されたものが <オンド・マルトノ> (Ondes Martenot) であり、発振器および拡声器を備えた電子楽器および電気楽器の一種であり、1928年にパリのオペラ座にて披露演奏会が行われています。
一方ハモンド社にては、トーンホイール式と平行して開発していた真空管回路による安定な信号発生装置を装備した、純粋な意味での電子オルガンは 1937年に作られました。
電子オルガンはのちの半導体時代にて多種な発展形が生まれ普及し、音量が自由に設定できる等ソロ楽器としての地位を得ました。 さらに半導体化されて各種のシンセサイザが作られました。 例えばキーボード系だけでなく、管楽器状のウインド・シンセサイザ等も作られています。

2. 録音・再生の電気化
これから以後は、皆様よくご存知のとおりですが・・・機械的な音声振動の直接録音する方式から、真空管が実用化されると、録音方法はマイクロフォンで音声を受けて増幅し、カッターにて溝をきる電気吹き込みとなりました。 再生では電気信号に変換するピックアップに代わりました。
ここで音楽および電気が一体化しました。 この方式による SPレコードおよびLP レコードが普及し、再生方法としてはいまなお利用されています。
受信機が各家庭に普及して、ラジオ放送は広い範囲への配布を可能にし、音楽の普及を促進しました。 電送写真技術として進歩した画像伝送は、逐次高速スキャンが可能になり、動画のTV放送に発展し、ラジオ放送同様に音楽の普及に寄与しました。
これらの方式の発展が、ステレオ録音・再生など音楽と電気の技術関係の発展に寄与しました。 動画の記録方式はフィルムおよび映画にて実用化が進み、音声は動画のフレーム脇に面積式または濃淡式にて信号を転写することにて、一体化して同時再生方式となりました。
音声は磁気テーフ゜が実用化され大容量化が可能になり、その後テープレコーダの応用が進みVCR による動画の録画・再生が普及しました。

 

3. ディジタル化・・・放送と通信の変遷
演奏の進行および音質の制御などをコンピュータにて制御する電子演奏装置の源流として
<モーグ・シンセサイザー> が1964年に現れました。 プログラム制御により電子楽器を駆動する構成にて、アメリカのシンセサイザー奏者ウェンディ・カルロスによる有名な “Switched on Bach” というアルバムが1968年に発行され、世界中の話題になりました。

<<J.S.Bach “Brandenburg Concertos No.3 in G major” BWV 1048 1st mov.
Allegro (#7) 5:42/ The Academy of Ancient Music 1984 DECCA POCL-4777>>

コンピュータの発展とともに、一足先にディジタル側からのアナログ世界へのアプローチがなされて録音方式および LP レコードの一部には先行して PCM が適用されました。 1980年代には急速にCD 化が進み、後に SACD など高分解能化しました。 音声および動画の統合ディジタル化が進み、Blu-ray 方式にて長時間の高精細動画の記録・再生方式が実現しました。

4. 普及と多様化
20世紀後半からコンピュータが企業に利用されるようになり、小型化と性能の向上が利用形態を進歩させ、自動化などの機器が公共システム、交通システム等に適用され、生活に密着したサービス機能等にも広く利用されるようになりました。

◎ 初期的な音楽発生実験例・・・
1966年のこと、報告者は担当していた中型汎用コンピュータにて音楽のデモ・プログラ ムを開発し、設置披露デモに供しましたが、機能が低く選曲には苦慮しました。
“Switched on Bach” のニュースに際しては 「とうとう実用したな」 と思いました。
◎ サイレン音・・・
ドビュッシーの {牧神の午後} に類似です。 原典ではおそらく牧神が午睡する呼吸の描 写か。 機械式のサイレン音がシンセサイザーに代わると緊張感が低下しそうです。
◎ ドレミファ電車・・・
2012年に廃止されたJR 501系電動車のサイリスタ制御音は実にユーモラスでした。
世界的に多用され、運行の省電力化に寄与しているそうです。

その後コンピュータによる作曲・演奏及び編集等の支援機能等が発展し、またシンセサイザの機能も強化され、音声情報の加工および人工音の合成が進み、音源の多様化が作品の多様化に寄与して、音楽および電気の関係はより深く強くなりました。
TV 放送はディジタル化移行して画質が向上し、さらにネットワーク経由の各種情報提供へのアクセス手段が加わりました。 さらにネットワーク・ラジオのリスナーの増加など、従来の地上波および放送衛星・通信衛星による放送形態から徐々に変化しつつあります。

5. 世界との接点
初のコンピュータ音楽から半世紀、音楽は通信と合体して、ネットワークにより世界レベルにて情報共有が可能となりました。 また私達の活動もネットワーク経由にて世界とは一体です。
電気および音楽の関係に限定せず、私達が享受している種々の情報通信の機能について、時には客観的に考察したいものです。 そして電気は大切に使いましょう。

<< “This Time” Hand Picked/ Earl Klugh (#16) 3:56
2013 HEADS UP HUI-33201-02>>

 以 上

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