ブラジル音楽の楽しみ

AAFC例会資料

2018/10/28

担当 : 鈴木 道郎


 

 日本の国土面積の約22.5倍(約851万km2)、2億人の人口を持つブラジルは、先住民インディオ、ポルトガル人をはじめとする白人入植者、奴隷として移住させられた黒人と様々な民族文化が混在する歴史的背景を持ち、ブラジル音楽はそれぞれの伝統音楽の融合がもたらした複合的なメロディーとサウダージ(郷愁、憧憬、思慕、切なさ)などの独自のロマンティックな世界感、高度で重層的な独特なリズムやハーモニーで、世界にも稀な多元的な音楽世界を構築している。
その中でも今回はMPB(エミ・ペー・ベー)ムージカ・ポプラール・ブラズィレイラと呼ばれる60年代後半~80年代のボサノバ以降のブラジルのポピュラー音楽の代表的な歌手、エリス・レジーナ (Elis Regina)ミルトン・ナシメント (Milton Nascimento) 、イヴァン・リンス (Ivan Lins)ガル・コスタ (Gal Costa)、カエターノ・ヴェローゾ (Caetano Veloso)、ジョイス (Joyce)、ジョルジ・ベンジョール (Jorge Ben Jor)、ジルベルト・ジル (Gilberto Gil)、マルコス・ヴァーリ (Marcos Valle)などの中から数人を紹介する。

オープニング Elis  7:05 渡辺貞夫 1988年録音

■Elis Reginaエリス・レジーナ(1945年~82年)は、1960年代から1970年代にかけて、「Pimentinha(ピメンチーニャ、小さな唐辛子)」の愛称で呼ばれたブラジルで最も人気のある女性シンガーであった。MPBアーティストの楽曲をいち早く積極的に紹介した功績も大きい。

1. O Bêbado e o Equilibrista (酔っ払いと綱渡り芸人)3:49
  ELIS, ESSA MULHER(或る女) 1979年録音

2.Madalena(マデレーナ) 2:37 ela 1971年録音

■Azymuth アジムスはブラジルのジャズ・フュージョントリオ。1960年代後半にジョゼ・ホベルト・ベルトラミ(キーボード)、アレッサンドロ・マレイロス(ベース)、イヴァン・コンチ(ドラム)の3人により結成される。

.Vôo Sobre O Horizonte(地平線を越えて) 3:45   Azymuth 1975年録音 
(NHK-FMで深夜放送された『クロスオーバーイレブン』(78年~01年)のオープニング曲として有名)

 

■Milton Nascimento ミルトン・ナシメント(1942年~)は、「ブラジルの声」の異名を持つMPBの代表的アーティスト。1974年には、ウェイン・ショーターのアルバム『ネイティヴ・ダンサー』にゲスト参加し、世界的に幅広いファン層を得た。その後もジョージ・デュークやサラ・ヴォーンと共演し、MPBの枠にとどまらない活躍を続ける。

4.Tarde(午後) 5:49  Native Dancer1974年録音
5.Travessia(道) 4:58   brazil-Mpb and bossa novaより

 

■Ivan Lins イヴァン・リンス(1945年~)は、MPB界屈指のメロディ・メイカー。ハーモニー感覚も斬新さ、独特のハイトーンを駆使したヴォーカルが特徴。

6.Começar de Novo(出発) 4:15 Cantando Histórias (2004)

 

■Alcione アルシオーネ(1947年~)は、サンバ・カンサウン(サンバのリズムを基調に、叙情的で哀愁感に満ちたメロディを歌う歌謡ポップス的な音楽)を代表するアーティスト。“マホン(栗色の娘)”の愛称でブラジル庶民に愛されている歌手。

7.Nao deixe o samba morrer (サンバを死なせないで) 4:26
8.E amor... deixa doer (愛に悩んで) 2:18
  A Voz do Samba [愛のサンバは永遠に」1975年録音

 

■Gal Costa ガル・コスタ(1945年~ )は、1960年代後期から80年代に掛けて、トロピカリア(ブラジル1960年代後半に起きた、音楽を中心とした芸術運動。当時の軍事政権に対するカウンターカルチャでもあった)における女性歌手・ギタープレイヤーの第一人者として活動。

9.Minha voz, minha vida (私の声、私の人生)03:38
10.Canta Brasil (歌えブラジル!)03:14  Fantasia 1981年録音

11.Wave(波)03:19
12. A felicidade (悲しみよさようなら)03:38   
  Gal Costa canta Tom Jobim  ガル・コスタのジョビン・トリビュート・ライブ(サンパウロ・パラセ劇場) 1999年収録

 

以上


O Bebado E A Equillibrista (酔っ払いと綱渡り芸人)

夕暮れの高架橋
そこに喪服姿の酔っ払いが現れると                
僕は放浪者を演じていたチャップリンを思い出した
月は売春宿の女将のように冷たい星々から宿代の輝きを巻き上げていた       
そして雲は空の吸い取り紙のようにそこにあり赤い染みを吸い上げていた                 
ああ息が詰まる、狂った世界!

山高帽子をかぶった酔っ払いは               
あらゆる無法行為を行なっていた         
ブラジルの夜に、私のブラジルに 

僕らブラジルは夢見ている、風刺画家の兄弟の帰還を          
危険な状況に巻き込まれて連れ去られた               
多くの仲間たちと共に帰ってくる姿を         
僕らの祖国 優しき母は泣いている          
マリアたちやクラリスたちが泣いている                    
このブラジルの大地で

でも僕にはわかっている 
こんな身を刺すような痛みが無駄になってしまわないことを                 
希望が踊る          
サーカスの小屋の緩んだ縄の上で           
ロープにその一歩を踏み出す度に                    
傷つく可能性がつきまとう         
全ては運なんだ 
希望という名の綱渡り芸人は         
全ての芸術家たちのショーが                 
止まることなく続いていかなければならないことを知っている

 

Travessia 道(人家のない長い道)        

君が去ってしまったとき、僕の生活は闇と化した。
僕は強い人間だ、しかしなすすべがない。今日は泣くしかない
僕の家は僕のじゃなく、ここも僕の居場所ではない。
一人きり。抵抗しない。話すことはたくさんある。
僕は街道に声を解き放つ。もう止めたくない。
僕の道は石の道(無情な)、どうやって夢を見ることができよう
そよ風を夢見ても、(より大きな)風がその夢をうちくだく
僕の悲しみを封じ込める。命を絶ちたくなる。 
でも僕は人生を続けるだろう。そして君のことを忘れていくだろう。
これ以上死はいやだ。懸命に生きなければ。
もう一度愛したいと思うだろう。たとえ叶わなくても二度と僕は傷つくことはないだろう。
もう夢は見ない。今日僕は自分の腕で人生をつむぐのだ

 

Começar de Novo(新たな始まり)

最初から始めよう
自分自身を頼りに
新しい夜明けを迎えたことにも
きっと意味が見つかるだろう

怒り、あがき
自分を傷つけ
生き延びてきたことにも

テーブルをひっくり返し
自分を知り
転覆する船に乗り込み
救い出されたことにも

最初から始めよう
自分自身を頼りに
夜明けを迎えたことにも
きっと意味が見つかるだろう

いつも自信たっぷりだった
君の元気は もう感じられない
君の幻影も もう見えない
君の壁に嵌められてしまうことも
もうない

君の支えを失い
その支配から逃れ
刺激を受けることもなく
魅惑されることも もうない

だから もう一度はじめに戻ろう
自分自身を頼りに
君を忘れてしまったことにも
きっと意味が見つかるだろう
A Felicidade(悲しみよさようなら)

悲しみは終わらない 
幸せは終わる

幸せは風が運ぶ羽の様
とても軽く飛んでも
止まない風が必要な短い命

貧しい人の幸せはカーニヴァルの大きな幻想のように思える
王様あるいは海賊または庭師の幻想を作る夢の瞬間のために我々は一年中働く
全ては(灰の)水曜日に終わる

悲しみは終わらない 
幸せは終わる

幸せは花弁に落ちるしずくの様
かすかに震えた後 穏やかに輝く
そして愛の涙の一滴のように落ちる

僕の幸せは恋人の瞳の中で夢見ている
夜明けを探し求めて過ぎていくこの夜のように
声を低くして話しておくれ
彼女が愛のキスを捧げながら楽しく目覚めるように

悲しみは終わらない 
幸せは終わる…