武満 徹の世界

AAFC例会資料

2020/01/26

担当 : 鈴木 道郎


 

今回は、今年生誕90周年を迎える日本の誇る、作曲家「武満徹」の多彩な音楽世界の一部を映像で紹介する。始まりも無ければ終わりも無い、透明な音の重なりの上に、浮遊するようなメロディーが永遠に続くかのような「タケミツトーン」で知られる音楽家武満徹の魅力の一端をお伝え出来ればと思う。

 

「私はまず音を構築するという観念を捨てたい。
私たちの生きている世界には沈黙と無限の音がある。
私は自分の手でその音を刻んで苦しい一つの音を得たいと思う。そして、それは沈黙と測りあえるほどに強いものでなければならない。」

「音楽がその基礎を置くべき音の根源はこの世に無数にある「具体的な音」である。この世には無数の具体的な音で充満された「音の河」が昼夜をおかず滔々と流れている。その「音の河」から聴くべき音を掴みだしてくることが作曲するということである。」

「自然と音楽」より

 

経歴

1930年東京生れ。満州大連にて幼少期を過ごす。
戦時中に聞いたシャンソンで音楽に開眼。戦後、作曲を志して清瀬保二に師事するが、実際にはほとんど独学で音楽を学んだ。

1950年、処女作であるピアノ曲『2つのレント』を発表。
1951年、湯浅譲二や秋山邦晴らと芸術グループ〈実験工房〉を結成。
1957年、結核の病床で書いた『弦楽のためのレクイエム』は、来日したストラヴィンスキーよって絶賛され、武満徹の名を世界に知らしめることとなった。
1967年、小澤征爾の紹介も有りニューヨーク・フィル創立125周年記念作品をバーンスタインから委嘱され、琵琶と尺八、オーケストラとによる協奏的作品『ノヴェンバー・ステップス』を発表。この成功が作曲家の名声を決定的のものにした。
『テクステュアズ』『地平線のドーリア』『遠い呼び声の彼方へ!』など次々に名作を発表。『砂の女』など映画音楽やポップスも精力的に手がけ、著書も多い。尾高賞、芸術院賞ほか、外国の賞も多数受賞。
1996年2月、膀胱ガンのため逝去。享年65歳。

 

1.A String Around Autumn              14:30

沈め 詠うな ただ黙して 秋景色をたたむ 紐となれ(大岡信秋をたたむ紐』)
90年 小澤征爾指揮/新日本フィル/今井信子ヴィオラ独奏。
フランス革命200周年記念行事の一環として1989年作曲されたヴィオラオーケストラのための作品。

2.東京戦争戦後秘話                           1:40

大島渚監督 1970年公開

3.他人の顔 『ワルツ』                         2:23

安部公房原作・脚色、勅使河原宏監督、1966年公開

4.乱                                               5:22

黒澤明監督1985年公開

5.MI・YO・TA                                   3:25

黛敏郎記憶による、未発表の短い映画音楽用の旋律。作詞:谷川俊太郎。
Ensemble Academy Kyoto

6.紙のピアノ                                     2:02

サントリーリザーブ ラジオCM 80年代放送

7.マイ ウェイ オブ ライフ マイケル・ヴァイナーの追悼に            18:00

96年 指揮小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ/Varitone Dwayne Croft
90年発表

My Way of Life
In Memory of Michael Vyner
田村隆一「私の生活作法」より

かつて一度 私の生活作法について書くよう 頼まれた事がある
生活作法ということを聞いて僕はびっくりした
猫には猫の生活作法があり
犬には犬の生活作法があるだろう
そこで僕はこんな詩を書いてみた

木は黙っているから好きだ
木は歩いたり走ったりしないから好きだ
木は愛とか正義とかわめかないから好きだ

ほんとうにそうか?
ほんとうにそうなのか?

見る人が見たら木はささやいているのだ
ゆったりと静かな声で・・・
木は歩いているのだ
空にむかって・・・
木は稲妻のごとく 走っているのだ 地の下へ・・・

木は確かにわめかないが
木は愛そのものだ
それでなかったら小鳥が飛んで来て
枝にとまるはずがない
正義そのものだ
それでなかったら地下水を根から吸いあげて空にかえすはずがない

若木 老樹・・・
ひとつとして同じ木がない
目ざめてている木はない
ひとつとして同じ星の光のなかで・・・
木よ
僕は君のことが大好きだ

人には人の生活様式があり
その様式をスタイルと呼ぶ
では私の生活作法をお教えしよう
よく寝ること
よく歩くこと・・・
ぼんやりしていること・・・
みんないっしょに
美しくぼけましょう

星の光 野の光・・・
さかまく地平線
倒立する地平線
帽子の下に顔があり
ドアを開ければ人がいる
雪にきざまれた鳥の羽・・・
小動物の足跡
秋の夕陽の落下速度・・・
春のおぼろ月・・・

「時が過ぎるのではない
人が過ぎるのだ」と
僕は書いたことがあったっけ・・・
その過ぎて行く人を何人も見た
僕もやがては過ぎて行くだろう

眼が見える
いったいその眼は何を見た・・・
「時」を見ただけ・・・

 

MI・YO・TA
木漏れ日のきらめき 浴びて近づく 
人影のかなたに 青い空がある

思い出がほほえみ ときを消しても 
あの日々のよろこび もうかえってこない

残されたメロディー ひとり歌えば 
よみがえる語らい 今もあたたかい 

忘れられないから どんなことでも 
いつまでもあたらしい 今日の陽のように

 

以 上

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