今思うこと

AAFC 連続エッセイ
投稿日
2014/05/02
執筆担当
山崎 光明
 

 

「今思うこと」というよりも、私のとってはずっと感じていることになるのですが、つらつらと書いて見たいと思います。

昔、楽器店のプロオーディオのコーナーで販売員をしていた時に多く聞かれた質問に、「音をよくするにはどうしたらいいですか?」というのがありました。
(※プロオーディオとは業務用の音響機器のことで主にレコーディングやコンサート、ライブのPAに使われる機材やそれを使う現場のことを指します)

この質問をするのは若くて楽曲制作を自分でやっている人に多かったのですが、聞かれるたびに前提となることがすっぽり抜けてしまっているのではないかと感じました。
その前提というのが生音が最もいい状態の音であり、マイクを通したり、何か加工をするたびに音は劣化して鮮度が落ちていくということです。
録音してしまったあとで何とかしようと奮闘しているようですが、録ってしまったものを録った状態よりも良くしようというのはかなり難しいことです。

プロの現場でもよくあることですが、楽曲の方向性がはっきりと決まっていなくて、とりあえず録音を進めてみようということがあります。
こういう場合は後でどう転んでもいいように、当り障りのない録音をすることになります。
こういう音にしたいと決まっている場合には最適な方法を模索して録音することができます。
もちろん後者の方がいい音で仕上がる場合が多いです。(ただ後で方向性を変えようとすることが難しくなります。)

私はレコーディングの仕事を辞めたあとも、よくアマチュアの人が録音したものをミックスダウンしてあげるということをやっていました。
その時にあれこれいじって音を整えて聴きやすくしますと「あ、音がよくなった。すごい。」などと言われました。
「いや、これは音が良くなったのではなくて、整理して聴きやすくなっただけだよ」といつも答えていました。

ここで問題となるのが「いい音」と「聴きやすい」ということを混同している場合が多々あるということです。
再生されたものが「聴きやすく」なって「音が良くなった」と感じるのはある意味当然のことですが、楽曲制作をしているような人は注意して意識的になる必要があると思います。

オーディオにおいても似たような場面に遭遇することがあります。
オーディオをやっている方は自分が理想とする「聴きやすい音」をイメージして、それに近づけようとしている方が多いと感じます。それはオーディオの大きな楽しみの一つであり、醍醐味であると言えるでしょう。
しかし同時にそれはとても個人的なことであり、個性であると思います。

その個人的なことが争いの火種となることがしばしばあります。
「いい音」を論じようとしているのに、自分にとっての「聴きやすさ」を争っているのでは、と感じることがあります。

こうやって書いていくと、だったら「いい音」って何だよ、とつい言いたくなるでしょうが、「何でしょうねぇ」としか私には言えません。だから毎日自問自答を続けています。
ただ一つだけ言わせていただくと、録音の仕事にしていた時にいつも頭の中にあったのは「表現者(演奏者)が伝えたい表現したいと思っていることが最大限に伝わるような音」でした。これを目指したり意識したりしていました。

たまにはうちのスピーカーからは演奏者の伝えたいことが伝わってきているだろうか、なんて考えながら聴いてみるのもいいのではないでしょうか。
たまにですよ、た、ま、に。そんな堅苦しいこと言ってないで、楽しく聴くのが一番大事ですから。


次は清水俊一さんにお願いします。

以上          

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