今思うこと

AAFC 連続エッセイ
投稿日
2014/07/01
執筆担当
宇多 弘
 

 

昨年 (2013年)、タンゴ分科会の発足と同時に無謀なことに私のカバー・ジャンルとして、アルゼンチン・タンゴ (以下、タンゴ) を再開するか、と老体に鞭打って挑戦したのでありました。
以下はお恥ずかしながら、(そして語るも涙の?) 今般纏めてみた <復活顛末記> です。

高校生時代 (1952年~) に、当時丁度流行の最中にあったタンゴの鑑賞?および情報獲得を開始しました。 受験勉強の合間の自主研修?でした。 また同級生にもタンゴ好きがいて、本業の勉強はソッチノケで情報交換したり励まし合いました。 当時の入手可能な音源はラジオ放送のタンゴ紹介番組のみ、そこで紹介され知り得た曲名およびメロディ等が唯一の情報でした。
当時流行した背景には、新しい音楽を求める皆さんが五音音階の長調または短調いずれかに固定の東洋音楽様式への窮屈さを感じ、とにかく長調・短調を自在に使い分けて多様に展開するタンゴの、むしろ西洋音楽の魅力に惹かれて飛びついたのではないかと、感じたことです。

スペイン語で呼称し歌うタンゴのこと、辞書やら文法入門書を参照して語尾の変化やらスペルやらの複雑さを確認、正しい発音ができれば上デキだよ、と習得訓練は放棄しました。
邦訳曲名は意味が直ちに判って便利な反面、検索および照合には何かと不便、原語扱いに努めました。 人名も “George” が <ホルヘ>、 “Angel” が <アンヘル>、カタカナでは脳内変換が面倒、極力原語にて整理しました。 曲名でも “Prohibido, Inspiración” =prohibited, inspiration (禁じられた事、霊感) 等、高校の英語でも理解可能な例もある一方で、なかにはフランス語の “Comme il faut” (礼儀正しく、とか) なんて曲名では意味が判るはずもなく、みな鵜呑みにしてマル暗記、強引に記号化した訳ですが・・・記憶方法としては正解でした。

その後多忙にて中止、60年近くブランクがありました。 再開に際しては以前と同様に <聴いて楽しめる状態> を回復したく、インターネットにて様子を探ると、以前は現地以外では日本とフランスでのみで流行ったとされるタンゴが、世界各国で広く聴かれていました。 その状況は、クラシックの世界でも、Jazz/Fusion でも、交通・通信のワールド・ワイド化が進んだこともあって、世界各国で開催される Festival 等を含めた、音楽のグローバル化現象の一部でもありましょう。

再開に臨んでは入手可能な CD を買い集めて <記憶残存テスト> を行いました。 その結果 <双方向連想完備の記憶セット> ・・・曲名からメロディを想起でき、同時にその逆が想起できる例は精々20曲程度の無惨さ。 他に一方通行、記憶喪失、お初。 気を取り直して回復しました。
その後、某社のホームページに掲載された約1,800曲のタンゴ曲名リストを発見して参照したところ、相当数の曲名につき 「見覚えがあるな」 と反応したのでした。 <記憶残存テスト> に含まれない、記憶に残る曲が曲名リストの <触媒> に反応して俄に活性化した訳であります。
「もしかして」 と思いついたこの絶妙な処理にて参照を経なければそのまま記憶は消滅必至、経過をレビューして 「期せずして綱渡りをやった」 と事後にマッサオになりガタガタ震えました。

なぜメモをとって保管しなかったかの自問自答です。 受験勉強の缶詰め・マル暗記方式しかない・・・とのワンパターンに従ったのか、またはメモ保管ではメロディは簡単には記憶できず、紛失したら回復不能と感じたのか・・・判りません。 ともかく記憶した曲名とメロディは殆どを参照可能なレベルに復活、強引な記号化記憶は有効性を立証、その努力は報われたのでした。

これでリストの1,800曲のホンの一角をカバーする <入門カケダシ級> のレベルです。
有名曲では演奏例が複数存在します。 超有名な <ラ・クンパルシータ> “La cumparsita” (行列、葬列らしい) の例では手持ちの CD 範囲でも 6種類、2~4種の例は多数みかけます。
そこでパソコンのお世話になり、手持ち曲名一覧表と併せて、作曲者・演奏例も一緒に整備しました。 その表も曲名リストの 15%程度ながら有名曲は概ね収容しました。 再生頻度の高い有名曲にどどまらず、新規に接した曲も鑑賞の際には楽になりたく、セッセと記憶していますが。

高校生の昔、イントロ (序奏) から即座に曲名を特定するか、または逆に曲名からイントロを特定する <イントロ記憶装備> も情報獲得の一部であり、タンゴ好き同級生と相互訓練しました。
イントロの実際はメロディの一部。 代表的な分散和音方式では、たとえばハ長調相当の4/4 にて <C-E-A-G> の繰り返しなら <アディオス・パンパ・ミア> “Adiós pampa mia” (草原よ去らば) と脳内検索にて一意に特定、曲名からイントロを想起する場合はその逆です。

他のイントロの形式にはメロディの終了部分の例、展開した変奏 (variación) の例、無関係な短い経過音的な例、または全く <なし> 例もあります。 本体の主題提示部分と連続して円滑に記憶読み出しが進み、余裕を以て楽しめます。 なお演奏面・ダンス面では一定の効果がある筈ながら知る由もありません。 関係者は曲は先刻承知で 「サア始めるぞ」 と引き締めるのかも。

<類似曲感知> は私の特技?!にて突如発生します。 ある曲の第一主題がある作曲家のヴァイオリン・ソナタに類似と最近発見しました。 虚無的で哀しく美しく好きな感じの曲・・・高校生当時にその作曲家にも傾いていたので意識下にて <情緒的反応> に加担したかなとの想像です。

話が変りますが、メロディおよび歌詞のみを記憶していた曲の 60年後の曲名特定例です。
高校への通学路上にあった、商店街放送施設からのコマーシャルのBGMに流れた何曲かのタンゴ、一曲だけは同級生でも特定できませんでした。 しかし覚えていたメロディと歌詞の一部を定期的に脳内再生・確認して 60年間維持してきたから、今回こそは特定せねばなりません。

方法はシンプル、 歌詞は “Buenos Aires ウンヌン” 、それじゃと <Buenos Aires> が曲名に含まれる10数曲を拾い上げて、歌詞およびメロディを検索して照合しました。 その結果短時間にて “La Canción de Buenos Aires” (ブエノスアイレスの歌) ・・・イトモ簡単に特定しました。
器楽曲では全曲比較なんて不可能、一般的に歌詞の抽出も困難、曲名と歌詞のキーワードが一致の保証もありません。 本例は聴取が容易なキーワード、曲目の一部と一致とは大ラッキー。
この曲は過去にも有名 cantante (歌手) がこぞって歌い、今も現地では大人気で盛んに歌われて、Tango Club (=カラオケ・ハウス等?) での実況動画も多数みられる古典の名曲です。
そしてタンゴとは、相当の部分が歌もの、歌って聴く音楽でもあると、今回再確認しました。

このようにして、タンゴ道楽の復活作業が進行中です。 高校生時代に着手・獲得した各種データが現在も有効かつ主要部分を占めて引き継がれていることを確認しました。 さらにその後の半世紀では内容的には大幅な変化は見られず助かりました。 またインターネット併用の検索およびデータ整理等、パソコンに大幅に助けられて充実しつつあります。 ただひとつ、曲の追加記憶が遅れ気味・・・<実施主体> の機能性能が低下傾向にて、バックログが増加一方・・・。

以上とりとめのない内容にて失礼ながら、お読みいただき有り難うございました。

次はディジタル・オーディオ全般とスピーカの大家、石田 隆さん、よろしくお願いします。

以上          

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