パリ音楽紀行(その3)
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2007年8月31日
赤田 勝彦


メゾン・ド・ラジオ・フランス(Maison de Radio France

5月25日シャンゼリゼ劇場でのヴェンゲーロフのコンサートがキャンセルされ急遽代わりの演奏会を物色することになった。
当地では「パリスコープ」なる便利な週間情報誌があり演奏会、演劇、映画等々全ての催し物がチェック出来る。これを参照するとこのホールで放送収録の為の公開演奏会があり駆けつけることにした。
16区のセーヌ河沿いに位置し1962年完成した円形の斬新なデザインが印象的な建物。ラジオ各局のスタジオのほか、大中小3つのコンサートホールがあり、フランス国立管等の本拠地として有名である。日本でいえばNHKホールのような存在。
1918年に瓦解したオーストリア・ハンガリー帝国の盛衰時期の音楽をカヴァーした「帝国は燃えているか?」というテーマのもと連続3日のコンサートの初日であった。

まず午後6時から室内楽用スタディオ(Studio Sacha Guitry)でラジオフランス・フィルのメンバーによる室内楽で:

コルンゴルド(Korngold)の弦楽6重奏曲、
コダーイ(Kodaly)のヴァイオリンとチェロ2重奏曲
クルターク(Kurtag)のクラリネット、ヴィオラとピアノの3重奏曲
いずれの曲も滅多に生演奏に接する機会の少ない意欲的なプログラムで、演奏も気合の篭もった熱演だった。
このスタディオは演奏者が最下段に位置し、聴衆は急勾配の階段席からそれを見下ろすといった具合で独特の響きだった。

次は午後8時から大ホール(Salle Olivier Messiaen)にて管弦楽プログラム

演奏はパリ地方国立音楽院交響楽団((Orchestre symphonique du Conservatoire National de Région de Paris)、指揮はウイーン生まれのグシュルバウアー(Theodre Guschlbauer)、懐かしい名前だ。
曲目は:
ヴェーベルン(Anton Webern)のパッサカリア
コダーイ(Zoltan Kodaly)のハーリー・ヤーノシュ
ドヴォルザーク(Antonin Dvořák)の交響曲第6番
を組み合わせた心憎いプログラムを楽しませてくれた。
日本ではあまり馴染みの無いオケだが、中欧的な素朴な香り、好感のもてる響きでとくにドヴォルザークが好演だった。グシュルバウアーの手腕だろう。
このテーマでのコンサートあと2日間催されるが東部地方への旅行で見送りとした。


シャトレ座(Théâtre du Châtelet)

さて今回パリ滞在最後のコンサートは5月28日シャトレ座でのビゼーのオペラ「カルメン」。
1862年に建てられたこの劇場140年余りの歴史を誇り、芸術の最先端をいくパリでも常に音楽ファンの注目を集め、巨匠やトップスターが集い、刺激的なファッション、前衛的な舞台装置、洗練された演出などで常に話題を提供している。国立オペラ座と双璧を成す。
演奏は注目の売れっ子マルク・ミンコフスキー率いるレ・ミュジシアン・ド・ルーヴル(Les Musiciens du Louvre-Grenoble)と合唱団。
演出はマルティン・クシェイ(Martin Kusej)が2004年ベルリンで初演したもの。
配役は:
カルメン……………シルヴィー・ブリュネ(Sylvie Brunet)
ドン・ホセ…………ニコライ・シュコフ(Nikolai Schukoff)
エスカミーリョ……デティ・タフ・ローズ(Teddy Tahu Rhodes)
ミカエラ…………ゲニア・キューマイアー(Genia Kühmeier)
新演出は近年流行の「読み替え」で、主要登場人物の4人が全て死んでしまうという「愛と死」のテーマを前面に出したもの。
19世紀の異国情緒のスペインを離れ、荒涼とした灼熱砂漠のような何処とも知れない舞台に照明も暗く、タバコ工場は殆ど娼館のようで、半裸の女性群のセックスシーンや暴力的な場面もあり、一般向けの「カルメン」とはいえぬが、不思議なことにそれほど違和感を感じさせずこの情念劇を巧みに新解釈したといえる。
この舞台を支えるピリオド楽器による管弦楽は雄弁で優美かつ情熱的で、最後まで惹きつけられた。音楽を聴くだけでも値打ちある演奏で大満足した。

さすがミンコフスキーでカーテンコールでも一番人気で大喝采を浴びていた。
あまり聞きなれぬ歌手陣だったが全体的には適役に思えた。

余談だが、今シーズン最後の公演日で切符は完売の状況下、なんとか天井桟敷席を入手し滑り込め苦労のし甲斐があった。

 

 

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