僕の当たりCD(第1回 ARTS レーベル)
 
松本慎一郎

 
 
常日頃もっといい音で聴きたい、どうしたらいい音になるかなどついついハードのシステムの方ばかりに目が行くというか、気持ちが行ってしまい、どうももっといいソフトを聴きたいというのは二の次になる。

だからと言ってアンプやスピーカーをやたら取り替えることなどできる訳がないし、今やケーブル1本といってもままならない値段である。

そうなるとピンクラグを磨いたり、アンプの天板にカーボンの端切れを置いてみたり、手持ちのCDに怪しげな液体をふりかけたりして、本人以外誰もわからない音の変わりようを楽しむしかない。

ではいい音(ハード)といい音楽(ソフト)のどちらに感動・感激するかといえば、これはいい音楽に決まっている。「その比較はおかしい、いい音で聴けばいい音楽はもっといい音楽になる。だからシステムをグレードアップしたい」というのがオーディオマニアの言い分であるが、これは詭弁で、やはりいい音楽、言葉をかえればいいCDにめぐり逢わなければ始まらない。

とか何とか言ってみても、所詮これはハードを買えない負け惜しみですけどね。

前置きが長くなったが、気持ち、ハードを良くしたいと言っても出来そうもないことから、これはほどほどにして、いいソフトとの出会い・めぐり逢いを深め、結果、いい音も楽しもうというのがこのところの心根である。

さて僕がこの出会い・めぐり逢いをするための場所であるが、概ね、秋葉原の石丸電気ソフト舘、新宿のバージンレコード、それから永福町のアンドー楽器店の3ヵ所である。

石丸は会社の昼休みにぶらぶらと、新宿は帰る途中ふらふらと、永福町は休みの日に歩いてぷらぷらと行く。

ぶらぶら、ふらふら、ぷらぷらと見て回るが、買うあてがあって行くことはあまりない。新譜は眺めるだけ、買うのは専らバーゲンコーナーの安物である。以前はレコ芸などの推薦盤をチェックしたものであるが、今は全く見ない。

しかし、買う基準が何も無いわけではない。できるだけ知らない演奏家、聴いたことのない曲、できるだけ新しい録音、そしてできるだけ安い、この辺が基準である。

こんな基準でバーゲンコーナーを見て回ると、DGとかフィリップスなどメジャーの盤には、まず手が出ることはない。最近は結構多く出ているが、それほど安くないし、知った演奏家が多いし、古い録音が多いからである。

従って、安売りのレーベルかマイナーなレーベルが中心となる。

先週、石丸ソフト舘に例のごとくぶらぶらと行ってみるとARTSレーベルの盤が安売りコーナーに並んでいた。このレーベル、ドニゼッティの室内音楽・ピアノ全集やクレメンティのピアノ全集(1巻だけ)など手許にあるが、なかなかいい印象で時々取り出して聴いている。

見てみると上述の基準に合うのがある。少し買ってみた。

何せ1枚580円である。当たりは結構多かった。 以下は、お買い得と思った盤である。

47541-2              In a Cloister

47399-2              Canzonette (B.Marine)  Trastulli (P.Torri)

この2枚は、女性の声が聴きもの。何とも生生しいというか、シンプル録音のせいかもしれないが、なかなか良かった。

47610-2             Mandolin and Fortepiano (Beethoven.Hummel.Foffmann)

447214-2            Sonatas OP.2  (Marcello)

47259-2~47267-2     Richard Strauss Complete Chamber Music

447249-2            Beethoven Piano Trios(VOL.1)

47613-2              Alexander Von Zemlinsky Lieder

47232-2~47388-2     Muzio Clementi Sonate,Duetti and Capricci

47610は、余りお目にかからない曲であるがマンドリンが鮮明に録れており、聴いていてハッピーな気分になる。

447249は、曲がポピュラーなのでやめようかと迷ったが、買ってよかった盤である。ピアノが少し出過ぎとの感もあるが、若々しい素晴らしく躍動感のある演奏で繰り返し聴いてしまった。VOL.2は売れてしまったのか、無かった。残念。

Clementiのこの盤は、本来はVOL2としてセットものである。しかし、バラで売っていた。簡潔、明確、純粋な形式感、近代的なピアノ演奏技術の基礎を確立、モーツアルトとピアノの競演、と言ったことがこれを聴くと少し分かるような気になる。ベートーベンのピアノソナタを聴くとベートーベンがクレメンティを偏愛したという意味が良くわかる。

しかし、通しで聴くと飽きるので1〜2枚買うだけでもいい。

スペインのGLOSSA盤も一時安売りに並んでいた。本来、安売りされるような盤ではないが、日本で本格的に売り出すための販売促進セールと言う方が正しいのかもしれない。

この辺は次回に。

それから忘れないうちにもう1枚。

ビバルデイの四季である。もう食傷気味でいいよとおっしゃる方が多いかもしれないが、目の覚めるような歯切れのいい演奏の盤を紹介します。

DIVOX CDX-9404 SONATORI DELA MARCA GiulianoCamignola(violino)

これは、石田さんからお借りしたドイツのマンガー(スピーカー)のデモンステレーション盤に一部が収録されていたものであるが、飛び抜けて素晴らしい演奏ながら石丸になかったので諦めていたら、高橋さんからそれは銀座の山野にあるよと教えてもらったものです。

さすが高橋さん、何でもよくご存知。

2000円は安い。買ったら多分3回は繰り返し聴きたくなり、持っているそのほかの盤はもういらないとの気持ちになり、何とイムジチが古びて聴こえることかと思うこと請け合い。

このSonatori De La Marcaが他に出している盤をご存知の方がいらっしゃるようでしたら教えてください。