13年前にどう思っていたか bR
 
松本慎一郎

 
 
結局、行方不明のサトリ(SATRI)・アンプは、受取人不在で持ち帰られていたことが判明。程なく届けられ、早速セッテングした。

石田さんところであれだけの音を聴かせてくれたのである。期待一杯である。

しかし、まあ、随分と失礼なお願いをしたものである。

石田さんところで、鳴っているスピーカーから音が消えて、その後ろに音場が広がり楽器がくっきりと現れた時、すぐ言ったものである。「これ貸してくれませんか」と。

カウンターポイントの修理をお願いしに行ったのにである。

石田さんの後日の弁。「私のプリをお貸ししても良かったんですが、それでは自分で聴けなくなってしまいます。それで、同じ回路基板を使わせてもらっているバクーンのプリ・アンプを貸し出してもらうよう手配したんです」

感謝である。

さて、この後の経過は、石田さんとやり取りしたメールをそのまま記載します。その方が都度都度どんなふうに印象・感想が振れたか、よくわかりますので。

しかし、サトリ・アンプといっても判る人の方が少ないと思いますので、次のホーム・ページを参照して、PRE−7610というバクーン・プロダクトのプリ・アンプを見てください。これです。

http://www.tachyon.co.jp/~sichoya/

マイナーブランドの製品だからなのか、広告をしないせいなのか、ステレオサウンドには取り上げられていません。いや、一度だけ同社のDACが次のように柳沢さんから紹介されているのを見たことがあります。

それははじめ半ば疑いの目、いや耳で聴きはじめた。なにしろ熊本県の聞いたこともない町の、バクーンプロダクツという妙な名の会社がつくった、自称、これによってはじめてCDから音楽を聴く喜びが可能になった-----、というDAコンバーターなのだから。実際、世の中には内外を問わず、ひとりよがりのきわもの的オーディオ製品も少なくはなく、本機もその条件に合いそうな要素を感じなくもなかったからだ。

しかし、1曲目のアーメリンクでその疑念は薄らいだ。

後日の資料で知ったが、同社は1979年に設立されたコンピューター関連機器や測定器を専門とするメーカーで、海外ではよくある話だが、オーディオ好きの社長が自分たちの技術で納得のいくCD再生をと、DAC作りに着手した。この経緯は日本版のワディアともいえそうだ。

 (5月26日 日曜)

石田さん

今日は、ありがとうございました。

カウンターポイントはもう少しいけるのではないかと思っていましたが、どうもこれは、

Aさん好みの音でしたね。先日、石田さんところで聴いた感覚が残っていたこともあったと思いますが、やはり全体が甘くなりますね。

あの後、1時間ばかり散歩してそれからサイテイションを外してサトリをラックにセットし、通電したままで食事と風呂を終わり、先ほどから聴き始めました。

充分低音も出ているのがわかります。出方が違うので最初は量感が薄いと感じましたが、スピードの違いなんでしょうね。

カタログを見ていましたらオプションと書いてありますが、お貸しいただいたこのプリは、どのアッテネータのボリュームなのでしょうか。また、電源コードを石田さんがお使いのものに換えればどんな感じに変わりますでしょうか。

デジタルケーブルも聞き比べをしてみましたが、特に今使っているスペースアンドタイムのレファレンスに不満があるわけではないのですが、お持ち頂いたベルデンの方が高域の伸びを感じます。すっきりとした音触で、こちらの方が目指す方向に合うような気がしますが、しばらく併用して試してみます。

プリの方は、もう少しいろいろ聴いてみてまたご連絡いたします。

(5月27日 月曜)

松本さん

昨日は、色々と聴かせていただいて有難うございました。

今回のサトリ・アンプはどちらかというと高域寄りのエネルギーが強いアンプなので、松本さんの好みからするともう少し低域寄りにバランスを整えた方が良いかもしれません。

アッテネータはデール巻き線抵抗のものでV5.1テフロン版というオプションをつけています。

電源コードも私のはどちらかというと音が締まってしまう方向なので、LINNブルー辺りで作ると良いと思います。

あと、電流入力用にアダプタが作れそうですので間に合えば電流タップと一緒に送ります。聴いてみてください。

*このサトリ・アンプは、電圧電送の入力端子もあるが、電流電送が売りのアンプである。(他の電流電送アンプではクレルがある)しかし、電流電送ということになると自社のサトリ製品しか使えなくなってしまうので、アダプターを使って電圧電送を電流電送にかえることができるようになっている。従って、送りますよというのは、このプリ本来の電流電送の音を味合えるようにアダプターを送りますという意味で、石田さんからの有難いお話なのである。

(5月27日 月曜)

石田さん

いろいろすみません。昨日はかなり遅くまで聴いていました。

今の音が特段嫌になったわけでもないのですが、10何年聴いてきて飽きたといことです。

自分で自分の還暦お祝いをするのであれば、この音をブラッシアップすることに使いたいと思って考えていたのですが、どこをどうやっていいのか判らなかったのです。

昨日聴いていて、ああ、この方向かなと少し得心が行きました。

少し前、ダイナミックオーディオに行ってゴールドムントとオリジナルノーチラスの音に驚かされたということもあります。

例のジェニファー・ウオーンズの「ハンター」の太鼓はどーんと鳴ると思っていましたら、トンと鳴って一瞬間を置いて体にビシっと来て、回りの家具がビリっと音をたてたのには本当に驚きました。決して量感のある音ではなかったのです。

スピードのある音というのは、こういう音をいうのかとはじめて体感した次第です。

また、ノーチラスの定位感にも驚かされました。

ただ、そのときは、今までの音に馴染んでいるせいで高域を強く感じ、低域を物足りなく感じたことも確かです。

しかし、昨日じっくり聴いているうちにこのノーチラスとゴールドムントの音を思い出しました。キレの良い高域に締まりのある低音、目に見えるような音場。

うーん、こんな音でマーラーを聴いてみたい。

そんなことで従来の延長上ではなく(従来に戻るのはサイテイションに繋ぎかえればいいのですから)、即ち、これまでの良さでもあった低域の膨らんだ量感のある聴きやすい音とおさらばして、とてもノーチラスまでとはいかないまでも、もう少しメリハリのある彫りの深い音・スピード感のある音を追求してみようとの気になりました。

アンプは石田さんがサトリを使っているのであれば、いろいろ面倒を見ていただく際お願いしやすいという当方の勝手な都合も考えて、これで行こうかと考えています。

お話のあったアッテネータのオプションを付けて、ボリュームも使いやすい11時か12時ごろの位置にすることが可能でしょうか。

思考錯誤、試行錯誤ですが、アドバイスがございましたらご教示ください。

(5月28日 火曜)

松本さん

オーディオばかりではないのですが、隣の芝は青く見えるということでやはり違った魅力は新鮮に感じられるものです。しかし、進歩というのもある程度冒険してみないと新しい境地には至らないかもしれませんね。

松本さんのところは正直言って低音は私には過多に感じますが、少なからぬ影響を受けてか、自分のところはやはりデッドで響きが足りないように感じ始めています。

やはりこの辺は、部屋の影響が大きいのでしょうね。松本さんところは床や壁がしっかりしている分有利に働いているのだと思います。

ところでプリアンプの件、いろいろ試してみることは可能です。もう一段中低域の厚みを出すことも可能ですし、ボリュームの調整もできます。この視聴が終わったら再度変更してみます。

それと先日お知らせした電源周りの件、今日発送します。手持ちのが東芝なのですが、延長用のテーブルタップにホスピタルグレードが付いています。コンセントが3Pだったのでアースピンは抜いています。それと電源ケーブルはアクロテックを入れてあります。

S/Aラボや自家製もありますが、こちらはちょっと締まりすぎと思うのでお送りしませんが、お聴きになりたければ今度もって行きます。

それと電流電送用のアダプタを入れましたので、DACからのピンケーブルにつないでサトリの電流入力に入れてください。これもちょっと違った音になると思います。

(5月28日)

石田さん

いろいろありがとうございます。

やはりきちんとラックにセットし、コンセントの方向もチェックして聴きますとまた音が変わって聴こえますね。随分とエネルギッシュに聴こえて低音が足りないとの印象はなく、逆に高域の伸びが足りないような感じます。

お出でいただいた時は、低音が足りなくて高域が強いと感じたんですから。

それが一日で逆に感じるようになったということは、感覚が変わったとしか言いようがないですね。

少し気になったことは、ソプラノの声が歌手による違いが少なくて、同じような印象になるのが不思議です。案外サトリの音には強い個性があるのかなとも思いました。

と言ったことでいろいろ想いも飛んだりして楽しませていただいているのですが、このプリは何時までお借かりできるのでしょうか。

(5月29日)

松本さん

大分音が変わってきたということですが、エージングもあるかもしれませんね。

前のサイテイションに戻して比べてみると基準がハッキリするので、それでも高域の伸びが足りないでしょうか。

電源タップと電流アダプタは今日には届くと思います。そちらも試してみてください。

アンプなどは今週一杯は問題ありません。月曜にでも送っていただければ結構です。

(5月29日)

石田さん

夕方着きまして、今いろいろ繋いだり外したり、座ったり立ったりと大忙しの最中です。長時間神経を集中して聴くというのも結構疲れるものですね。オーディオ評論家が短命なのは、案外運動不足の神経の使いすぎということも、あるかもしれませんですね。

まだ一当たり聴いただけですから、また感じは変わるかもしれませんが、概ね、お話の通りの印象です。

一番変化したのは、電源コードでした。アクロテックに換えましたら、滲んでいたのがピントがあったような変化でした。これだけすっきりした音になるのであれば、付属の電源コードは換えた方がというより換えなければいけないと思いました。

電圧入力はエッジが立つ感じで鮮明でストレートですが、少しきついかなというところです。電流入力は綺麗で聴きやすく、今まで聴いていた音に近い感じですが、電圧入力に比してピアノはコンではなくコロンといったように丸くなります。音像も少し後ろに行くように思えます。

従来の音を磨くのでしたら電流入力の方かなと思いますが、より定位をシャープにそしてリアリテイを求めるという今回の狙いからしますと、今のところ電圧入力の方かなというのが今日の印象です。テーブルタップは、壁コンより聴きやすくなる印象ですが、音の勢いが殺がれるような気がします。但し、際立った変化はありません。

勝手なお願いに対し、いろいろお手配いただき恐縮です。ありがとうございました。

しかし、聴いているうちに判からなくなってしまいますね。

(5月30日)

松本さん

一度に色々変化があったので良くわからなくなってしまったかもしれませんが、大体音の変化の感想は私も同じだと思います。要は、この中でどれを選択していくか、それによってどのような音作りを楽しんでいくかだと思います。

テーブルタップはコードの長さが影響して、コンセントではなくコードの音が出たのかもしれません。タップよりは壁コンで取れるのでしたらそれに越したことはありません。

壁コンでもそのコンセントの差を聴いてもらいたいと思っただけです。

しかし、今の壁のコンセントは換えた方が良いように思います。まあ、価格的にもたいしたことはありませんし、戻すこともできますから。

松本さんところを聴くにつけ、私の方も自分の音の欠点が見えてきて、やはり和室の問題で残響がないためか、音の艶に欠け臨場感も足りないことに気がつきました。

自分の音ってなかなか気がつかないものですね。

そこで昔のヤマハのDSP−1を引っ張り出し、サブ・システムで加えてみると、結構これがいいです。クラシックの場合とポピュラーは少し変えなければならないのですが、非常に滑らかで艶が出てきました。以前試した時はどうもメイン側の音が濁る感じがしたのですが、それほどではなく利点の方が多いようです。

またいらっしゃる機会がありましたら聴いてみてください。

まだまだ続きますが、第3回はこの辺で終わりにします。段々音が変化するのにともない音楽の聴こえ方が変わってきました。音楽する、即ち、ムジチーレンです。音楽が生き生きとして来ました。勿論いい方向にです。

まだ変わります。何処を換えたらどう変わったか、これはまた次回に。

石田さんところも変わってきたようです。