私の狙う音
 
石田 隆


 オーディオをグレードアップする目的はそれぞれ狙っている音(音場)に少しでも近づくことだと思いますが、よく言われるHiFiを狙うと言っても詳細に確認してみるとこれがまた各自狙っている音が異なっていに気が付くのが面白いものです。

 クラシックなら生コンサートの再現と普通言われますが、コンサートと言ってもかぶり付きの席やちょっと聴けないけれど指揮者の位置とか、客席はちょうど真ん中S席の音とかそれだけでもいろいろ考えられます。ましてや隣の席で同じ演奏を聞いてもそれぞれ受ける印象が異なっている様に、生の音といえども理想とする音は各人全員が別といっても過言ではないでしょう。
 ですから私としては安心して各自がそれぞれの音を目指せばよいと考えます。普遍的である前に本当に自分にとって納得する音とは?むしろこれを素直に進めていけば最終的には共通項が見えてくるのではと思うからです。

 そこで私の目指す音を説明すると一つは実体感のある音です。実体感のある音というのを分かりやすく言えば、目の前のそこで音が鳴っている様に聞こえる音ということになります。

 楽器の音は再生音でもその楽器の種類を間違えようも無いですが、再生音としての意識があると音像がや音色がおかしくても、再生音という範疇で音を聞いてしまうために実際の音との差は気が付きにくいものとなります。音源として2次元的な音像の大きさだけでなく、3次元的な前後感、音源からの2次反射音による音源が置かれた環境の大きさまで、さまざまな条件の中で人間は音源を把握しているはずなのですが、一旦再生音という意識が入るとその辺が曖昧になってもあまり不思議と思わなったりします。逆にこの実体感がうまく再現できると音のリアリティは格段に良くなるのです。

 もう一つはやはり音場の再現です。といっても元音場がそのまま再現できるわけも無く、とりあえずはそのミニチュアとなるでしょう。しかし、音源の方向感と前後、奥行き等を上手に再現してゆくとそのミニチュアもそれほど違和感はなくなるはずです。

 最後は前者とある意味では重なるのですが、視聴者の環境再現です。つまりホールなどに居るという雰囲気をどう感じさせるかがテーマです。音楽が流れていようといまいと何らかの音は我々の周りには常に発生しているわけですから、それらの反射音を聞きながら人は無意識にも現在の環境を把握しています。オーディオの再生においても音楽の切れ目や前後は、やはり環境に気が付かないにしても意識してしまうので、その間に環境の不連続性があると違和感を感じるのです。

 分かりやすくいえば音の余韻がうまく再生できるがよく問題になりますが、これも一部は音の後の環境違和感を感じるかどうかを言っているのだと思います。

 これらの目指す音を再現するためにはいろいろ手段はあるのでしょうが、今の所測れる部分は専ら正攻法で進んでいます。つまりあまり周波数特性はいじらずにフラットで、歪はなるべく少なくといったところです。実はそれ以外でもというかそれ以外のところに音を左右するいろいろなファクタがあるのですが、前者をいじってしまうとそのファクタが見えなくなったり分かり難くくなったりするからです。

 例えば切れの良い音を出すには中高域のレベルを上げてゆくと簡単に得られますが、特定の音源にしか通用しなくなり、楽しめる範囲を限定してしまいます。それもまた一法ですが、今の所はそうならなくて済んでいますが、最後はまあどうなるかは分かりません。それで無くとも良く分からないファクターが多すぎるのがオーディオなので、アプローチもあまり科学的なものばかりとは言えないかも知れませんが、最後に人間の聴感という永遠の謎がある限り全てが科学的に解明されることは無いと思いますし、それがまたオーディオの奥が深い事を保証してくれているように思います。          以上