AAFC

室内楽おもしろ講座 第4
「これからは地味な音楽 ”室内楽” も楽しく聴ける」

室内楽 各論 その3 国民楽派

2013年11月24日
分科会資料
講師 : 高橋 敏郎


 前回のドイツ・ロマン派に続き、今回は国民楽派の室内楽を楽しんでいただきましょう。
19世紀初頭以降 ウィーンを中心に発展した独墺ロマン派の動きは、隣国フランスや、東欧チェコやハンガリー、ロシア、北欧ノルウェイ、フィンランドなど周辺地域へと急速に波及していきます。
  今回は 19世紀後半から20世紀初めに作曲された そうした民族性豊かな国民楽派の室内楽を聴いていただきます。

演奏曲目(予定)

 以下に掲載の室内楽作品を今回もまた全てDVD映像にてご鑑賞いただく予定です。


A. フランク 「ヴァイオリン・ソナタ」イ長調 (演奏時間 26:10)


  1822年ベルギー生まれのフランクは、早くからパリを中心に活躍し、フランス楽壇に多大な影響を与えて、その門下からはダンデイ、デュパルク、ショーソンなど多くの逸材を輩出した。その楽派を「フランキスト」と呼んでいる。
本作品(1886)は、その繊細かつ極めて瞑想的な情緒によってフランス美学の金字塔的名曲といわれる。

第一楽章 アレグレット・ベン・モデラート  序奏に続いて曲全体の循環動機となる神秘的でロマン溢れる第一主題が現れる。この動機は各楽章で形を変えて展開する。(いわゆる循環形式)本楽章は展開部を省略したソナタ形式で作られ最後はコーダで終わる。
第二楽章 アレグロ  力強く 情熱的。ソナタ形式
第三楽章 レシタティーヴォ・ファンタジア ピアノによる序奏とコーダをもつ自由な形式による
第四楽章 アレグレット・ポコ・モッソ ロンド形式


演奏はクリスチャン・フェラス(v)ピエール・バルビゼ(p)による。 (1963年録画)

フェラスは、1933年、フランスの生まれ。。パリ音楽院卒、カルヴェ、エネスコなど巨匠に師事し、13歳でパリでデビュー。以降とくにカラヤンとの共演が多かったが、これからという70年代に健康を害して公的活動から引退、82年、まだ49歳の若さで自ら命を断ったといわれる悲劇のヴァイオリニスト。デュオの相手は ほとんどが本録画と同じフランス生まれのピアニスト、バルビゼ(1922-90)だった。ソリストとしてよりも室内楽専門のピアニストであり、さらに言えばフェラスの共演者として著名だった。


B. フォーレ 「子守唄」作品 16 (演奏時間 3:23)


1880年に作曲されたフォーレにとっては比較的初期の小品だが、フランス的エスプリ溢れる名品。
クリスチャン・フェラス(v)ピエール・プチ(p) (1973年録画)
フェラスにとっては、晩年の録画といえるが、超得意分野にも拘らず、本画像はちょっと生彩を欠いているかもしれない。


C. チャイコフスキー 弦楽四重奏曲 第一番 ニ長調 作品11 (演奏時間 28:00)

交響曲、コンチェルト、バレエ曲、オペラなど各分野で活躍したチャイコフスキーだが、室内楽の分野でも 弦楽六重奏曲(フィレンツエの想い出)、3つの弦楽四重奏曲、ピアノ三重奏曲(偉大な芸術家の想い出のために)などの名作を残している。ここでは その第2楽章が”アンダンテ・カンタービレ”としてあまりにも有名な弦楽四重奏曲第1番を聴いてみたい。初演に立ち会った文豪トルストイがその美しさのあまり涙したエピソードでも有名。

第一楽章 モデラート・エ・センプリーチェ、 ソナタ形式
第二楽章 アンダンテ・カンタービレ  2つの美しい旋律が交互に現れる自由な形式
第三楽章 アレグロ・ノン・タント  スケルツォによる三部形式
第四楽章 アレグロ・ジュスト ソナタ形式

演奏団体はボロディン四重奏団。(1987年録画 )

  同奏団は1945年にモスクワで設立されたロシア最高の四重奏団。当然 チャイコフスキー、ボロデイン、ショスタコヴィッチなどロシアものの演奏では 他を寄せ付けない圧倒的な存在感を感じさせる。この分野で唯一匹敵できるのは 録音の悪さを値引きすれば やはりモスクワ音楽院卒業生による1923年設立のベートーヴェン四重奏団ぐらいであろうか。


D. ドヴォルザーク ピアノ五重奏曲 イ短調  作品81 (演奏時間 41:00)

  チェコの生んだ大作曲家ドヴォルザークもまた幾多の優れた室内楽作品を創った巨匠の一人であった。
シューベルト、シューマン、フランク、ブラームスのそれとともに 五大ピアノ五重奏曲の一つに数えられる本作品は1889年の作曲。翌90年作曲のピアノ三重奏曲(ドゥムキー)とともに 極めてボヘミア色豊かなメランコリックな雰囲気をもった作品。ドヴォルザークは 92年から3年間 新天地アメリカへと出発。ここでは かの有名な『新世界』交響曲、チェロ協奏曲、弦楽四重奏曲(アメリカ)など祖国ボヘミアへの郷愁溢れる一連の傑作が次々に生まれるが その契機となった作品でもあった。

第一楽章 アレグロ・マ・ノン・タント ソナタ形式
第二楽章 アレグロ・コン・モート  ”ドゥムカ”による自由な形式 ドゥムカとは ドヴォルザークが特に好んだウクライナ地方の民謡。
第三楽章 スケルツォ、モルト・ヴィヴァーチェ  自由な三部形式
第四楽章 フィナーレ、アレグロ ロンド形式

演奏はマルカンドレ・アムラン(p)& RTE ヴァンブルー四重奏団。(1998年録画)

  アムラン(p)は 1961生まれ。フランス系カナダのピアニスト、現在ではシチェルバコフと並ぶ超絶的技法の持ち主として著名だが、自身 作曲家・編曲家としても多数の作品を残している。音楽的才能も素晴らしく、本録画でも
鍵盤の上を撫でるような軽やかなタッチで ヴァンブルー四重奏団との息もピッタリの名演を披露している。
  ヴァンブルー四重奏団、1985年ロンドンで設立後、各種コンクールで優勝するなど実力派奏団。但し 国外でその実力の割には知名度がないのは、アイルランドから出ることがほとんどないこと、また主たるレパートリーが あまり知られていない現代作家の作品であることによる。この録画もアイルランド南岸にあるコークで彼らが始めたコーク室内フェスティヴァルでのライブ。本録画によって彼らの実力を納得いただきたい。

追記            
  もし時間があれば 室内楽とバレエとのコラボレーションによる珍しい映像を一部ご一緒に鑑賞してみたいとおもいます。曲目は ヤナーチェックの弦楽四重奏曲第2番(ないしょの手紙)のうちから1楽章。演奏はハーゲン四重奏団、バレエはチューリッヒ・バレエ団による優れもので ザルツブルグ音楽祭(2009年)で録画されたものです。

以上