Lola Bobesco (1921-2003 82y) (本人申告では1926年生れ)
ルーマニア出身のベルギーのヴァイオリニスト、ブリュッセル音楽院教授。
天才少女として父親の伴奏によりデビューした後、1934年(13歳)にパリ音楽院に入学。
1937年(16歳)に第1回ウジェーヌ・イザイ・コンクール(現エリザベート王妃国際音楽コンクール)で第7位に入賞し、世界的に有名になる。(第1位はD.オイストラフ)
バロック音楽とフランス音楽を得意とし、とりわけヴィオッティの協奏曲や、フランク、フォーレ、ギヨーム・ルクー、ドビュッシー、プーランクのソナタの録音は人気がある。また、ブラームスのソナタやクライスラーの小品集も魅力的である。(Wikipedia一部改編)
ローラ・ボベスコはヴァイオリン界の妖精とか貴婦人とかいわれ、演奏はエレガントと言えますが、弾き振りで演奏したり(4,5)、カデンツアを作曲したり、他の同世代の女流名ヴァイオリニストが行っていない録音(1,3,4,5)を結構残しているとか、演奏家として8回も来日する(3)等、際立ったところがあります。
録音は1980年代(60歳代)のものが殆どですが、廃盤になっているものが多い中、最近、1961、62年
(40,41歳)録音の小品集が発売されましたので、そのうちの幾つか(1,2)も聴いてみましょう。
1.ルクレール (1697-1764 67y Jean-Marie Leclair )
仏リヨン生まれ。後期バロック音楽の作曲家。18世紀フランスにおけるヴァイオリン演奏のヴィルトーゾ。
フランス=ベルギー・ヴァイオリン楽派の創始者と見做されている。
作曲はヴァイオリン・ソナタ、2つのヴァイオリンの為のソナタ、トリオ・ソナタ、協奏曲等多数あるが、
その中で次のソナタはとびきり有名。
ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 op.9-3 (mono) CD alpha (13:47)
緩-急-緩-急の教会ソナタ形式による大変美しい曲。第4楽章の“タンブラン”とはプロヴァンス地方の長太鼓で、これを使って踊る舞曲の意もある。ヴァイオリン小品集で単独で演奏されることもある。
第1楽章 Un poco andante (4:04)
第2楽章 Allegro (2:25)
第3楽章 Sarabannda: Largo (3:35) 3拍子のゆったりとした舞曲。哀愁をおびた緩徐楽章。
第4楽章 Tambourin: Presto (2:31) 2拍子の速い舞曲。
(ピアノ:ジャック・ジャンティ)
録音:1962年 (41歳)
2.タルティーニ (1692―1770 78y Giuseppe Tartini)
イタリアの後期バロック音楽の作曲家・名ヴァイオリニスト。「悪魔のトリル」で知られる。
パガニーニ以前の最大のヴァイオリニストといわれる。
ヴァイオリン・ソナタ ト短調 「捨てられたディド」(mono) CD alpha (12:35)
ディド(Didone)とはギリシア・ローマ伝説テュロスの女王のこと。ディド女王はアエネアス(トロイアの英雄)と
恋に落ちるが、彼は神命によりイタリアに去ってしまい、リビアの王と結婚を迫られた。
嘆き悲しんだディドは王宮に火を放ち、その火中に身を投じて死んだという伝説がこの作品の題材である。
(詳細後記)
第1楽章 Adagio Affettoso(愛らしく)(5:40) ディドがアエネアスを想う気持ちを描いたとされる
第2楽章 Presto non troppo (1:50) 燃え盛る王宮に身の投じたディドを描いたとされる
第3楽章 Largo-Allegro commodo(気楽に)(4:55) 亡き王女への挽歌とされる
(ピアノ:ジャック・ジャンティ) 録音:1962年 (41歳)
3.ヴェラチーニ (1690-1768 78y Francesco Maria Veracini)
フィレンツェ生まれ。後期バロック音楽のヴァイオリン演奏のヴィルトーゾ、作曲家。ヴァイオリンやリコーダーと通奏低音のためのソナタや歌劇、オラトリオ、序曲集(管弦楽組曲)等多数作曲。
ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 op.2-8 CD TDK (14:17)
ヴェラチーニ作品中、最も有名な曲。ボベスコの最も得意とする曲の一つであり、録音も多い。
緩・急・緩・急の教会ソナタ形式。
第1楽章 Fantasia, Largo (5:02)
第2楽章 Allemanda (2:52) 2拍子の活き活きとした舞曲
第3楽章 Pastorale (3:44) のどかな牧歌
第4楽章 Gigue (2:39) 3拍子の速い舞曲
(ピアノ:岩崎 淑)
録音:1983年 (62歳) 都市センターホール・ライブ(4度目の来日)
4.ヴィヴァルディ (1675-1741 66y Antonio Lucio Vivaldi)
合奏協奏曲集 「四季」から 「秋」「冬」 LP 独SASTRAPHON (20:35)
秋: 1.Allegro 2. Adagio molto 3. Allegro (11:30)
冬: 1.Allegro non molto 2. Largo 3. Allegro (09:04)
Vn&Cond : ローラ・ボベスコ 管弦楽:ハイデルベルク室内オーケストラ
録音:1967年 (46歳)
5.J.S.バッハ (1685-1750 66y)
ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ニ短調 BWV1060 LP 独talent (15:00)
本曲はバッハによる原曲ではない。原曲はケーテン時代に作曲されたが、現存していない。バッハはこの原曲より「2つのチェンバロのための協奏曲 第1番 ハ短調 BWV1060」を編曲し、現存する。これを元に1920年頃マックス・ザイフェルトにより本曲が復元された。本曲はヴァイオリンが主、オーボエが従であるが、オーボエが主、ヴァイオリン従が「オーボエとヴァイオリンの為の協奏曲 ハ短調 BWV1060a」である。
第1楽章 Allegro (3:02)
第2楽章 Adagio (6:00)
第3楽章 Allegro (3:57)
Vn&Cond : ローラ・ボベスコ ob : セニア・トゥルバシニク
管弦楽 : ヤング・ソロイスツ・ストリング・アンサンブル
録音:1986年 (65歳)
6.ヘンデル (1685-1759 74y)
ヴァイオリン・ソナタ 第4番 ニ長調 op.1-13 CD alpha (13:02)
第1楽章 Adagio
第2楽章 Allegro
第3楽章 Larghetto
第4楽章 Allegro
(ピアノ:ジャック・ジャンティ) 録音:1962年 (41歳)
『捨てられたディド』
悲恋の物語
ディドとはギリシア神話・ローマ神話に登場する女性で、カルタゴを建国したと伝えられている伝説上の女王です。
カルタゴとは現在のチュニジアにあたる北アフリカに存在した強大な海洋都市国家で、その最盛期においては地中海の覇権を握っていたと言われます。
そして、新興のローマと死闘を繰り返し、ハンニバル率いるカルタゴ軍がアルプス越えの奇襲でローマを滅亡の縁にまで追い込んだことはよく知られています。
しかしながら、数次にわたるローマとの戦いの中でついにカルタゴは滅亡してしまうのですが、その輝かしい歴史はチュニジアの人々にとっては大きな誇りであり、その建国の女王とされるディドは紙幣の肖像として今も描かれているほどです。このタルティーニによるヴァイオリンソナタ「捨てられたディド」は、そのような女王の悲劇の物語を素材として書かれた作品です。
ディドは都市国家のティルスの国王の娘として生まれたと伝えられいて、父の死後は兄とともに共同で統治するように遺言されていました。
しかし、兄はそのような遺言を反古にして彼女の命を狙うようになったために、ディドは心ある家臣とともに新しい土地を目指して旅立ちます。
そして、苦難の旅の末にたどりついた地で、彼女はその土地の王から己の才覚で砦を築くにたる土地を手に入れることに成功します。そうして築かれた砦が都市国家カルタゴの始まりとされています。
やがて、彼女が築いたカルタゴの地にトロイアの英雄アイネイアースが流れ着きます。木馬の計略によって陥落したトロイアを再興させるために地中海をさまよった末にカルタゴの地に流れ着き、やがて女王ディドと愛しあうようになります。
しかし、その様子を見たユピテル(ゼウス)はメルクリウス(マーキュリー)を使わして彼にカルタゴ再興の誓いを思い出させ、イタリアに向かうことを命じます。
神意を受けたアイネイアースはそれに従い、ディドを捨ててイタリアに向かうのですが、捨てられたディドは嘆きの末に自らの王宮に火を放ち、その火の中に身を投じて命を絶ちます。
タルティーニは第1楽章でアイネイアースに寄せるディドの想い、第2楽章では燃え盛る王宮に身を投じたディドを描いたと伝えられています。また、第3楽章は亡き王女への挽歌として捧げられいます。
音楽を文学的に解釈することを嫌う人たちはタルティーニ自身が何も書き残していないことを根拠として、そのような聴き方を排します。
しかし、バロックとは過剰な妄想だと想えば、この甘く切ない音楽にそのような悲恋の物語を重ねて聞くのも悪くはないと想います。
第一楽章
Affettuoso. 愛らしく の意。ディドがアエネアスを想う気持ちを描いたとされる哀切で、アルマンド風の曲。二部形式でかかれ、ト短調-変ロ長調-ニ短調-ト短調が大まかな変化であり、三連符、 重音が多用されてる。
第二楽章
Presto non troppo. 燃え盛る王宮に身の投じたディドを描いたとされるクーラント風の急速楽章。
上昇音階とアルペジオ風の音符が多用されるが、第二部でせわしない音形から一時開放されたような、カンタービレのやさしい旋律もある。前楽章と同じく二部形式で書かれ、ト短調-ニ短調-ト短調が大まかな変化。
第三楽章
Largo-Allegro comodo. Largoは第一楽章、第二楽章の総決算といった趣の重々しい曲で、重音が多様され、完全終止せずattaccaで始まるAllegro comodo(comodoは気楽に の意)は亡き王女への挽歌といった趣のバルカローレ風の音楽で、第一、第二楽章とは異なって穏やかな雰囲気の曲。
二部形式で書かれ、ト短調-ニ短調-ト短調が大まかな変化。第二部の終盤で、それまでとは異なって痛切な旋律がピアニッシモで奏でられるが、それもすぐに打ち破れ、最後は決然と曲を閉じる。
参考文献 海野義雄;Baroque Violin Favorites CDライナーノーツ
以上