AAFC

第17回 往年の女流名ヴァイオリニストの演奏を聴く

ヨハンナ・マルツィ( ハンガリー) (全4回)
(その3) 放送局録音及びライブ録音 1(1954~1957)
(29~32歳)

2016年5月29日

分科会資料
担当:霜鳥 晃

 

Johanna Martzy(1924.10-1979.8 54y) 

マルツィのヴァイオリン
1950年 マルツィはスイスの富裕な出版社主 ダニエル・チューディに出会う。チューディはアマチュアのヴァイオリニストで、楽器のコレクターでもあった。カール・フレッシュ愛用のピエトロ・ジョヴァンニ・グァルネリ・ オブ・マントゥアをフレッシュ未亡人より購入していた。チューディはこれをマルツィに貸与したが、マルツィの演奏スタイルには合わなかった。
そこでチューディは直ぐに別のヴァイオリンへの交換を申し入れる。

1936年に入手した1733年製のカルロ・ベルゴンツィ (かって所有していたイタリア人コレクターの名前から“タリシオ”として知られている)である。
1956年には彼女のために、クライスラーやフーベルマンも手にした名器1733年製のストラディヴァリも購入して、貸与したが、マルツィはベルゴンツィを愛用し、全てのレコーディングに使用している。

マルツィの英国デビューは1953年であるが、50年代の大半はスイスのグラールスとスコットランドのダブリン近郊グレナルモンドを行き来していた。グレナルモンドには夫が音楽学部長を務めていたトリニティ・カレッジがある為である。

1959年34歳の時、夫のチレリーと離婚。1960年35歳、チューディと再婚。

1.メンデルスゾーン           
    ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64  (LP 独archiphon mono Live)・・(25:45)

本演奏は、1954年のオランダ・フェスティヴァルのライブ録音とされているが、特に第1楽章前半の録音状況は劣悪であり、さらに第1楽章と第2楽章のつなぎ部分が一部カットされてしまっている。
録音技師の勘違いと思われる。(CDにはマニア向けと記されている由)
それでも今回本演奏を採り上げるのは、演奏の素晴らしさによる。ヴァイオリンとオケの丁々発止。
特に第3楽章の高揚感、緊張感はクレンペラーの凄さを感じる。またティンパニーの使い方が効果的で他に例のない伴奏と思われる

第1楽章  Allegro molto appassionato 2/2拍子 ソナタ形式    (12:23)
第2楽章  Andante  ハ長調  6/8拍子  3部形式        (7:14)   
第3楽章  Allegro non troppo – Allegro molto vivace        (6:08)
        4/4拍子 ソナタ形式 - ホ長調

指揮:オットー・クレンペラー ハーグ・レジデンティ管弦楽団
アムステルダム・ライブ   録音;1954年6月 (29歳)

現在確認されているマルツィのメンコンは次の通り。(録音順)
1. 1951.1   ハンス・シュミット=イッセルシュテット  北ドイツ放送so   廃盤
2. 1954.6.9  ボルフガンク・サヴァリッシュ       フィルハーモニアo
                                 TESTAMENT(EMI)
3. 1954.6.23 オットー・クレンペラー            ハーグ・レジデンティo
                                オランダ・フェス・ライブ
4. 1955.12  ポール・クレツキ               フィルハーモニアo  EMI
5. 1959.2  ハンス・ミュラー=クライ        SWRシュトゥットガルト放送so
                                       haenssler廃盤

2.ベートーヴェン
    ヴァイオリン・ソナタ 第5番 へ長調 op.24 「春」(CD 独WEITBRICK mono)・・・ (22:18)

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの中でマルツィの録音が多いのは第8番ト長調op.30-3である(DG,COUP d’ARCHET, WEITBLICK)。明るく、躍動的な曲を好むからだろうと思われる。

「クロイツェツ・ソナタ」はバイエルン放送録音(COUP d’ARCHET)にあるが、少々明るく紹介する気にはなれない。 「スプリング・ソナタ」は録音がないと思われていたが、本年2月、独WEITBRICKからケルン放送録音として発売された。予想通り、マルツィに合った爽快な好演である。

第1楽章  Allegro                (7:24)
第2楽章  Adagio molto Espressivo      (6;37)
第3楽章  Scherzo (Allegro molto)      (1:21)
第4楽章  Rondo (Allegro ma non troppo)  (6:56)

                   ピアノ:ジャン・アントニエッティ
                   録音:1957年5月 (32歳)   ケルン放送
 

3.ベートーヴェン
    ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61 (CD 加DOREMI mono Live) ・・・・・ (41:18)

2010年7月、カナダDOREMI社から発売され、マルツィの本曲録音としては唯一のものであり、多少音質は悪いものの、期待通りの演奏である。就中、カデンツァはヨアヒムでもクライスラーのものでもなく、マルツィのオリジナルではないかと思われる。

本曲のカデンツァは第1楽章及び第3楽章にみられるが、第1楽章で聴き比べてみたい。

   作曲者      演奏者
1. ヨアヒム     シェリング     (1965)   (4:00)
2. クライスラー   オイストラッフ   (1968)    (3:30)
3. マルツィ ?    マルツィ      (1954)    (2:30)

第1楽章  Allegro ma non troppo                 (22:08)
第2楽章  Largetto                        (9:23)
第3楽章  Rondo (Allegro)                     (9:47)  
                     指揮:オトマール・ヌッシオ
                   スイス・イタリア語放送管弦楽団   ライブ
                     録音:1954年 (29歳)
 

ご参考: 本曲でよく使われるカデンツァ(第1楽章)

ヨアヒム:   シゲティ(1935),シュナイダーハン(1953)、 シェリング(1965)   
クライスラー: メニューイン(1947)、ヌヴー(1949)、スターン(1955)、フランチェスカッティ(1961)、
オイストラッフ(1968), ムター(1973), パールマン(1980)、バティアシュヴィリ(2007)
アウアー:   ハイフェッツ (1940)
演奏者作曲: デ・ヴィート?(1954)、マルツィ? (1954), ミルシュテイン(1957?)、ヴェンゲーロフ(2005)
ベートーヴェン(自ら本曲をピアノ協奏曲版に編曲したものがあり、その中にあるカデンツァを演奏者等が
ヴァイオリン版に編曲したもの): 
シュナイダーハン(1962)、クレーメル(1992)、コパチンスカヤ(2008)、ファウスト(2010)


以上