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「20世紀の音楽」第1回

序章 その1

2017年1月15日
分科会資料
担当 : 山本 一成

 

19世紀末から20世紀の初めにかけて、西欧は科学技術の急速な変革によって未曾有の産業社会を生み出し始めていた。その大きなうねり、社会現象の変化が西洋音楽シーンに影響を与えないはずはないのです。まずお伝えしたい事は西洋音楽において、20世紀に入り作曲家の創作に対する意識はそれぞれの国の社会状況により相違があったと言うことは考えられます。

ドイツ 普仏戦争誤、帝国主義への道を直進しており、19世紀的伝統的な価値観には疑念がなかった。1900年の意識はあまり感じられない。又、伝統的な西欧以外の文明に対してきわめて強い拒否感を持っていた。
オーストリア 普墺戦争敗北以来、経済の低迷と国力の衰退、出口のない閉塞感に見舞われた。その様な状況か、これまでの伝統的な価値観の解体が強く意識されたのである。1900年の持つ意味は大きかった。
イギリス 落日の大英帝国ではあったが、過去の栄光の思い出に浸っていた。エルガーのノスタルジックな音楽は19世紀文化へのオマージュである。
フランス 普仏戦争で敗北した後、ドイツの価値観とは異なるフランス独自の音楽を目指したとき19世紀と決別した。アジアやアフリカの美術においても積極的に受容していった。

(西原 稔:「モストリークラシック」より要約)

この序章では、西洋音楽シーンにおける20世紀音楽の流れを分類してその分類から作曲家を選び、その内の一曲を私のファイルの中から選びご紹介いたします。

◎国民楽派 

ヤナーチェック(1854~1928)   (チェコ) 
    「シンフォニエッタ」(1926年)              
        プロ・アルテ管弦楽団 
        指揮 チャールズ・マッケラス  EMI

モラビィヤの(現在のチェコの東部)民族音楽研究家。「民族音楽と芸術音楽は一つの管で繋がっている。」「芸術音楽が唯一、民謡から発展する。」と述べた。「真のスラブ民族を確立しようとした人物」との評価。村上春樹の小説{IQ89}に登場。共産党員 

・バルトーク(1881~1945)   (ハンガリー)
    「弦楽四重奏 3番」(1927年)
        クロノス・クァルテット    エレクトラ

ピアニスト。民族音楽研究家。近現代の作曲者。ヤナーチェックの表現法式と、加えて西洋音楽の技法の発展系を同時に採り入れた。過去の音楽に目を向けて新しい音楽を生み出そうとした。新古典主義の一人。

◎フランス音楽 

・サティ(1866~1925)   (フランス)
    「でぶっちょ木製人形へのスケッチとからかい」
        (2013年)フィリップ・アントルモン  SONY

「音楽会の異端児」「音楽界の変わり者」と称されながらも、西洋音楽に大きな影響を与えたと言われる。作品に奇妙な題名をつけたことでも知られている。散文的に、拍節が気まぐれに変動するような作品も数多く存在し、調性とはほど遠い楽句や作品も数多く生み出されている。近現代の作曲家。共産党員

  *フランス6人組

・オネゲル(1892~1955)   (スイス)
    「Pacific 231」(1923年)
        オスロ交響楽団
        指揮 マリス・ヤンソンス  EMI

全五曲の交響曲。フランスに移住、ジャン・コクトーのグループに入りそこから6人組のメンバーに加わる。プロテスタント信者、ワーグナーに心酔、パイプ収集家、船と機関車に興味を持つ。
スイスフランの紙幣人物、新古典主義の作曲家。

・ミヨー(1892~1974)   (フランス)
    「屋根の上の牛」(1920年)
        マウリツィオ・モレッティ(p)
        アンジェラ・オリヴィエロ(p)  カメラータ

富裕なユダヤ人家庭で育つ。生まれつき小児麻痺を患っていたので、車いす生活。この曲はブラジルの思い出から作曲するが、批評家から「滑稽な作品を書く作曲者」というレッテル。ブラジルの古いタンゴに由来するバレエ音楽。毎週土曜日6人組のメンバーはミヨー宅に寄せていた。4手によるピアノ曲。

・プーランク(1899~1963)   (フランス)  
    「フルートとピアノのためのソナタ」(1957年) 
        マチュー・ドュフール(F)他  RCA

「ガキ大将と聖職者が同居していると評された。ロシアの作曲家プロコフィエフとは、ピアノやブリッジを通じて親交が篤かった。プーランクは生粋のパリッ子で有り都会人であった。彼が作る曲は軽快、軽妙で趣味が良く、ユーモアとアイロニーと知性があり「エスプリの作曲家」と言われるが、敬虔なカトリック教であった両親の影響を受け、宗教曲や合唱曲も手がけている。アルマ・マーラーの家で新ウイーン楽派のメンバーと合う。

◎世紀末芸術

*印象主義  ・ドビュッシー(1862~1918)   (フランス) 
              交響詩「海」(1905年)
                  フィルハーモニア管弦楽団 
                  指揮 カルロ・マリア・ジュリーニ  EMI

世紀末芸術 印象主義 機能和声にとらわれない自由な和声法などを用いて独自の作曲を実行し、その伝統から外れた音階と半音階の用い方から19世紀後半から20世紀初等にかけて尤も影響力を持った作曲家である。
気難しい性格で、内向的且つ非社交的出会った。音楽院に入ってからは伝統を破壊しかねない言動(不平不満や文句)をしていたため、担当教師を困らせていた。女性関係においてのトラブルもたえなかった。
西洋音楽からジャズ、ミニマルミュージック、ポップスにいたるまで幅広く多用多種な音楽の部類に影響を与えている。この曲は標題音楽で有り、ドビュッシーの最高傑作の一つであるばかりでなく印象主義音楽を代表する作品となっている。

*後期ロマン派  ・マーラー(1860~1911)   (オーストリア)
                「大地のうた」(1909年)
                    ミシェル・デ・ヤング(メゾソプラノ)
                    ミネソタ交響楽団
                    指揮 大植英次   RR

今後20世紀音楽の中で採り上げる作曲家・音楽なのでその際の説明に残す。マーラーは14歳年下であるアルノルト・シェーンベルクの才能を高く評価し、又深い友好関係を築いた。

          ・リヒャルト・シュトラウス(1864~1949)   (ドイツ)
                「四つの最後の歌」「夕映えの中で」(1948年)
                    グンドゥラ・ヤノヴィッツ
                    ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
                    指揮 ヘルベルト・フォン・カラヤン

 近現代の作曲家。交響詩とオペラの作曲家。作曲者84歳の時に作曲され、初演は作曲者の死後。1950年5月22日にロンドンにおいておこなわれ、フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団の伴奏により、キルステン・フラグスタートによって演奏された。この作曲家も今後この講座で採り上げる作曲家。

◎現代音楽

*十二音主義  ・シェーンベルク(1874~1951)   (オーストリア)
                「月に憑かれたピエロ」(1912年)
                    イヴォンヌ・ミントン、 バレンボイム(P)
                    指揮 ピエール・ブーレーズ     SONY

           ・アルバン・ベルク(1885~1935)   (オートストリア)
                「ヴァイオリン協奏曲」(1935年)
                    フランク・ペーター・ツィンマーマン(Vn)
                    シュトゥットガルト放送管弦楽団
                    指揮 ジャンルイジ・ジェルメッティ     EMI

*新古典主義  ・ブゾーニ(1866~1924)   (イタリア)
               「ヴァイオリン ソナタNO.2」(1900年)
                   ジョセフ・リン(Vn)Loeb(p)   NAXOS

          ・ショスタコーヴィッチ(1906~1975)   (ロシア帝国)

          ・ストラヴィンスキー(1882~1971)   (ロシア帝国)
               「春の祭典」(1913年)
                   ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 
                   指揮 チャールズ・マッケラス      EMI

*神秘主義   ・メシアン(1908~1992)   (フランス)
               「トゥーランガリア交響曲」
                   トロント交響楽団
                   指揮 小澤征爾    RCA

*原始主義   ・プロコフィエフ(1891~1971)   (ロシア帝国)
               「ピアノ協奏曲第1番」(1912年)
                   マルタ・アルゲリッチ(p)
                   指揮 シャルル・デュトワ      EMI

          ・バルトーク(1881~1945)   (ハンガリー)
               「ピアノ協奏曲第3番」(1945年)
                   マルタ・アルゲリッチ
                   モントリオール交響楽団 
                   指揮 シャルル・デュトワ

*騒音音楽    ・オネゲル(1892~1955)   (スイス)

*電子音楽    ・シュトックハウゼン(1928~2007)   (ドイツ)

***オーバーフローについて 岡田暁生氏の指摘*****

従来の「クラシック音楽」が「現代音楽化し始めたのは、第一次世界大戦前後からだったのだが、丁度それと入れ替わる様にして、1920年代から急速にレコードが普及し始めた。才能ある音楽家にとって作曲より演奏(録音)の方が魅力的に見えたとしてもふしぎでは無い。モーツアルト、ベートーヴェン、ワグナー、マーラー、ドビュッシー --

何をやるにも作曲のフィールドでは先行する歴史が多すぎる。大概の響きの実験はもう彼らが既にやってしまっているのだ。もう純粋にオリジナルな音楽を書くことは殆ど不可能な、そういう歴史のオーバーフロー現象が生じ始めたのだ。そこに行くとレコード録音の分野では、幸いなことに、全てがゼロから始めることが出来る。

以上