石見神楽宇野保存会「天蓋」
3団体合同「伊吹山」

AAFC例会資料

2016/02/14

担当 : 藤井 千惠子

 

石見神楽宇野保存会 「天蓋」 18分  3団体合同 「伊吹山」 ダイジェスト

 神楽は日本の神道の神事において、神さまに奉納するために奏される歌舞です。
 私は本格的には15年くらい前から5年間、宮崎県の高千穂・銀鏡 (しろみ)・椎葉村・諸塚村の村々を回って地元の方々に混 じり、徹夜で10数力所見てきました。
 5年くらい前に国立劇場東京公演で石見神楽を初めて見たとき、あまりにも絢爛豪華な衣装・派手な所作にびっくりしました。(衣装は手工芸品で一着300万円近くする物や、重さが20kgくらいする物もあるとか)
 歌舞伎のルーツは出雲の阿国と言われているようですが、中国地方出雲系神楽を見るとまさしくそれが理解出来ます。

 本日はユーチューブにもアップされていますが、島根県浜田市宇野地区にある神楽団 石見神楽宇野保存会さんの2012年11月22日 地元八幡宮で奉納された「天蓋」を最初に見ていただきます。
 この「天蓋」という演目は、全国の神楽そして中国地方の神楽の中でも石見神楽といわれる流れの中でしか演じられません。この天蓋から地上に降りてくる神様は、東西南北そして土用を司る神様で、青色は東、赤は南、白は西、紫は北、黄色は土用で中心となっています。

 この五色は五行説 (古代中国に端を発する自然哲学の思想。万物は木・火・土・金・水の5種類の元素からなるという説)から来ていて、西洋の四大元素説と比較される思想です。 神社やお寺の五色の幕。鯉登りの吹き流 しの色。そして童謡 「たなばた」のなかで五色の短冊と歌われているので身近に感 じられると思います。 ちなみに木・火・土・金・水は「もっかどごんすい」と発音し、
木=東=春=青  火=南=夏=赤  土=中央=土用=黄色  金=西=秋=自  水=北=冬=紫(黒)です。青春と云う言葉や詩人の北原白秋は、五行説からとった名前です。

  宇野保存会さんは、神さまの色を忠実に守っているので (他の神楽団では五色を混ぜて一つの神様 とし、東西南北のけじめを付けていないところもある)是非DVDを送ってほしいとお願いし、本日みなさまにお見せすることが出来るようになりました。

 奏楽は神楽では最小最強のカルテット、太鼓・小太鼓・鉦・笛です。残念ながら太鼓・小太鼓は手前にいるのでしょう。映ってはいませんが、装束を付けた次の出番の方やスタッフがチラリと見える舞台裏の様子は臨場感があると思います。ちなみに演者 (奉仕者)はみなさま一般市民の方々で、プロではありません。 他に生業を持ちながら、伝統芸能を守るのに尽力されている。

 石見神楽団は百団体以上あると云われますが、みな地元のみなさまの熱意に支えられているとい
うことです。

● 古い言い回し聞いたような聞かないような神様の名前など、どうぞ耳をそばだててお聴き下さい。そして5人の神様が民に歓待され、喜び舞い踊る姿を再現する、その手綱捌きをたった1人で操る技術をご覧下さい。

「伊吹山」
 内容は父景行天皇と皇子である日本武尊との心の葛藤。現在でいう家族病が原点とも云える物語です。
 あまりにも強すぎた日本武尊は父である景行天皇に疎まれていました。父に命令され西では熊襲・東では蝦夷と奇人を退治しに行き無事成敗。 父にその手柄を褒めてほしいと願いつつも、父からはねぎらいや褒め言葉の一つもありません。
 あまつさえ近江の国、伊吹山に住む奇人を退治してこいとの命令です。そして霊験あらたかな八雲の剣を父景行天皇は大事な神事に使うので今回は置いていけとさえいうのです。日本武尊は「私はお父さんに褒めてもらいたい。お父さんに愛されていない」と嘆きます。
 中国地方では道化でおなじみのヒョットコ (火男)のお面をかぶったケンヤンとのやりとり。客席の神楽愛好家達とのやりとり等ありますが、前半は割愛します。

 伊吹山に着き三種の奇人、鬼、キツネ、大蛇を退治はしますが、八雲の剣がなかったために、父親に愛されたかったという思いと「ヤマ トは国のまほろば」ふるさとへ帰りたかったという願いも空しく死んでしまいます。

 奇人として出てくる鬼は親分・一の子分・二の子分が面と衣装ではっきりしており、衣装の袖肩山を引き抜くと、一瞬にして垂れ下がり、くるくる回ることによって、まるでスカートの様に波打ちます。重い衣装を身につけ、石州和紙で出来た大きな面を付けながら、よくぞあそこまで自転回転出来る物だと、その技量・体力・気力は日頃の鍛錬のたまものと感心してしまいます。

 キツネの所作は、歌舞伎「義経千本桜」のキツネを彼彿させます。
 最後の大蛇。この大蛇の胴体は約 7mもあるそうです。 1人が一匹を担当します。蛇腹ですから縮めれば1mく らいになるのでしょうか。縮んだ胴体の中に頭を入れて背負って運ぶそうです。くちにはLEDライ トが灯いていたり、口からから煙を吐いたり、はたまた現地では花火のように火も噴くそうです。

 先日、別の神楽団公演を東京大手町 日経ホールで観たのですが、蛇は8匹出てきて、まるで組み体操の様に絡み合ったり個体で大きく見せたりで、招待されていた外国人からは驚きの声とやんやの喝采を浴びていました。
 舞台に出て来るときは縮んだ胴体を伸ばせば良いのですが、舞台裏へ捌けるときは長い胴体を縮
めなければならず、これが大仕事だとか。舞台裏のその作業を実際に見たいものだとも思います。

 さてみなさまお楽 しみいただけましたでしょうか。神楽は80年くらい前までは、全国津々浦々で地元の氏神様でも舞われていました。最後に残ったのは、おかめ・ ヒョットコの舞。
 40年くらい前、当時住んでいた千葉県鎌ヶ谷市くぬぎ山の駅前でも近所の神社の秋祭りに舞台が出来、おかめ・ヒョットコが地元の商店街のおじさん達によって舞われたのを観たことがあります。
 柏神社では正月に巫女による浦安の舞が舞われます。 本日観ていただいたものとは様式が違いますが、神様に喜んでいただく奉納舞であることには違いがありません。

 石見神楽をはじめとして中国地方の神楽は、これからも民族芸能として、地方再生の一つとして、地元の方々をはじめ、神楽ファンを楽しませて下さい。なにより演者が全てプロでないと云う強み。まさしく玄人裸足です。 影ながら各神楽団のご発展をお祈り申しあげます。

 以 上

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