「音は脳で聴く」

AAFC例会資料

2016/04/10

担当 : 大塚 祐司

 

「音」とは何?、「音を聴く」とはどういうことか? 日頃意識することのないものですが、その実態についてお話しいたします。

1) 音とは空気の振動(気体振動)ということですが、我々はそのまま聴いているのではなく、鼓膜の振動(個体振動)として捉えます。そして耳小骨で約25dB増幅して、蝸牛内に満たされたリンパ液の振動(液体振動)に変換します。その振動により、有毛細胞が揺れることで、パルス様の電気信号が生じ、それが神経経路を伝わって脳に届きます。すなわち何段階もの変換や増幅を経て、最後はデジタル信号のようなパルス(刺激) になり脳の聴覚野という領域に到達します。この間約0.05秒という早業です。

2) 脳に到達した刺激は、複数の経路に枝分かれし、一部は言語野に達し言葉の意味を認識します。そのほか、視覚情報、これまでの経験(知識)や記憶、感情などの神経ネットワークが同時に活動し、脳内にイメージを生み出します。CDを聴いてピアノの音と認識したり、喜怒哀楽といった感情を抱いたり、音という1つの刺激に応じ、多くの情報がネットワークに流れ、各種のイメージを脳内に作り出します。

3) 音の情報のみではなく、他の情報も加味されることで、実際に各自が聴く音というのは、情報加工が行われた、言い換えるとイコライジング処理された結果であろうと思います。中でも記憶情報は少なからず影響を及ぼすようで、僅かな音質の差を聞き分ける能力とか歌が上手い下手といった部分にも繋がるのではないでしょうか。覚えている音と比較して、より音がいいと評価したり、正確なメロディーの音階が上手く記憶できず音が外れた歌を歌ったりと、意外にも記憶が支配する部分は少なくないようです。

4) 記憶自体は過去の経験に基づくものですが、そのお蔭で助かっていることもあります。加齢により高音域が聴こえにくくなるものですが、今でもさほど不自由なく音楽を聴いていられるのも記憶のお蔭だと思います。その理由ですが、自然界の音には音色があり、人の声、車、楽器など音の情報だけでも何の音かは容易に認識できます。すなわち音には独自の音色があり、それは倍音という成分がで含まれているからからです。倍音を生む元が基音といわれるものです。楽器演奏で聴く音とは基音+倍音ということになります。基音は単一の周波数の音(聴力検査で聴くブーとかピーというような音)で、どの楽器でも基音は同じ音がします。

5) 基音については、高音になるにつれてピー⇒チー⇒シーとなりやがて聴こえなくなります。なんの付随音を含まない単純な信号音ですから、聴こえなければそれまでとなります。でも基音に倍音が乗ると楽器の音色になり、ある程度の倍音成分を聴くことができれば、高音域の倍音が一部欠落しても、脳がその楽器本来の音色を記憶しているお蔭で、脳のイメージとしてちゃんとした音色を感じることができるのだろと思います。これもまた脳におけるイコライジング作用賜物ではないでしょうか。

6) 演奏者の名前やオーディオメーカーのブランドなど直接音に関係ない情報でも、それがいい音に繋がる記憶であれば、それだけで影響を与えます。それは期待感といった感情ですが、卓越した演奏とか力強い再生音といった評価に接すると期待感が高まります。音は脳が感じるイメージですから、期待感が高まれば、それだけでイメージの半分は出来上がってしまうこともあります。広告やカタログといったものも単に告知や解説といった領域を超え、期待感を高める効果を狙ったものなのでしょう。琴線に触れる刺激があれば脳内でのイメージは際限なく広がります。イメージさえ作ることできれば音は変わります。実はこれがオーディオは何をやっても音が変わる本質ではないでしょうか。

7) ○○を交換すると音が変わる!××を弄ると音が良くなる!という経験をしたとしたら、他人が感じられれない変化であろうとその感覚は「本物」で、だれも否定できませんし、理論的裏付けも不要です。みなさん、ご自身の耳!?いや、「脳」を信じましょう。それこそがいい音を聴く秘訣です。

 以 上

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