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『ゴルトべルク変奏曲に魅せられて』

AAFC例会資料

2016/05/29

担当 : 林 英彦

 

ゴルトべルク変奏曲と言えば、第一に「グレン・グールド」のピアノ演奏を思い浮かべると思いますが、今回はオリジナル楽器のチェンバロを始め色々な楽器での演奏を取り上げました。
この曲に特に興味を持ったきっかけは。ドイツを旅行した際ミュンヘンのレジデンスにある王室礼拝堂で行われたミニコンサートで「弦楽三重奏」による演奏を聴いたことにあります。
それ迄は退屈な曲という印象が強かったのですが、新たな輝きと深淵さを伴って心に響いてきた次第です。

本日の発表のサブ・テーマは、再生カートリッジによるLP演奏です。
以前に発表した「DENON DL-103LCⅡ改造品」の針先をSAS針にリチップ、誤って折ってしまったカンチレバーのカケツギを施した物を使用します。(再生を諦めていましたが、見事に蘇りました。)
※SAS:Super Analog Stylusメーカーにより「マイクロリッジ」(SHURE)「マイクロリニア」(audio technica)とも呼ぶ

1.ワンダ・ランドフスカ (1879~1959) 1934年録音  EMI 2C051-43371

ポーランド出身の女流チェンバリスト。第二次世界大戦の際ナチスから逃れるためにアメリカに亡命(真珠湾攻撃の日ニューヨークに上陸した。)
最初の記念碑的演奏とされている録音。
このレコードは、フランスEMIがアナログLP末期にリファレンス・シリーズとしてSPの復刻盤を発売したもの。
ランドフスカは、渡米後1945年ニューヨークで再録音している。
(RCA)

 

2.グレン・グールド (1932~1982)  1955年録音  COLUMBIA MASTERWORKS ML 5060

カナダ出身グールドのデビューアルバム。
彼がデビューアルバムにゴルトべルク変奏曲を申し出たところCBSの幹部は「いくら何でもそんな冴えない面倒でややこしい作品に、駆け出しのピアニストのキャリアを賭ける気は君にはあるまい」「ゴルトべルク変奏曲なら、あの恐るべきワンダ・ランドフスカがこれまた恐るべき彼女のハープシコードで既に録音しているではないか」と反対した様です。
結果は、大変なベストセラーとなりグールドの一大出世作となった。
1981年の再録音以前のものとして、1959年ザルツブルク音楽祭ライブ録音盤がある。

3.カール・リヒター(1926~1981)    1970年録音  LONDON SLC 1772

東ドイツ出身の、オルガン、チェンバロ奏者。
また1955年「カール・リヒター室内管弦楽団(後のミュンヘン・バッハ管弦楽団)」を組織し、指揮者としてもバッハ演奏に数々の偉業を成し遂げた音楽家。
1975年リリースの:ARCHIVバッハ大全集(LP100枚組)でも、オルガン、チェンバロ奏者としてまた指揮者として貴重な遺産を残している。

 

 

4.グレン・グールド (1932~1982)  1981年録音  CBS SONY 28AC1608

グールド50年の生涯の末期に再挑戦した再録音。
「名盤のほまれ高い27年前の初録音をはるかに凌駕する世紀の名演である。旧盤が若い才気の飛翔だったとすれば、新盤は賢者の深慮にもとづく確固たる造型と技巧の勝利であり、あらゆる音に奏者の意識が働いている、演奏のマニエリズムの極致といえるものなのである。」諸井 誠
この録音に使われたピアノは、愛用のスタンウェイが搬送中の損傷、代替を探していたところ偶々グールドがニューヨークで見つけ気に入ったYAMAHAの中古ピアノが使われた。

 

5.ドミトリ・シトコヴェツキー (1954~)【弦楽三重奏】  1984年録音  ORFEO  25PC-10092

旧ソ連出身のバイオリニスト。1977年国の許可を得アメリカ(ジュリアード音楽院)に留学。1979年クライスラー・コンクール優勝。

彼の両親はグールドの「ゴルトべルク変奏曲」の愛聴者で、その両親からグールドの偉大さを聞かされ自らも研究を重ねる内に、自身の楽器で演奏を求め弦楽三重奏に編曲(グレングールドの思い出のために)

バイオリン:ドミトリ・シトコヴェツキー ビオラ:ジェラール・コセ
チェロ:ミシャ・マイスキー

 

6.ニュー・ヨーロピアン・ストリングス【弦楽合奏版】1993年録音 NONESUCH WPCS-10568

シトコヴェツキーは、弦楽三重奏の成功をもとに、更に発展させ弦楽合奏版に編曲。また彼は指揮にも興味を抱きフィンランドのコンショルム音楽祭で指揮者としての手腕を発揮、1990年にニュー・ヨーロピアン・ストリングスを結成。本演奏では、コンサートマスターを務めている。

楽器編成:1stバイオリン 4 2ndバイオリン 4 ビオラ 3 
チェロ 2 コントラバス 1 チェンバロ 1 /13人

 

7.ジャン・ギユ (1930~)  【オルガン】 1987年録音  DORIAN DOR-90110

フランス出身のオルガン奏者、作曲家。またパイプオルガンの設計・製作にも携わる。
オルガンへの編曲は彼自身による。
使用オルガンは、中央フランスのアルプス山系に連なるラルプ・デュエズ峠の標高2000mに、1969年に建設された Notre-Dame des Neiges 教会 に設置されたオルガン。ギユのデザインにより西ドイツのオルガン製作者である Detlef Kleuker により1978年に製作された。

 

8.カトリン・フィンチ (1980~) 【ハープ】 2008年録音       00289-477-8165

イギリス出身のハープ奏者。2000年~2004年チャールズ皇太子お抱えのハープ奏者としてイギリス王室に仕えたこともある。
ハープによるゴルトべルク変奏曲の録音は本CDが初めてであり、編曲も彼女自身が行っている。

 

 

 

9.マルコ・サルチート     【ギター】 2014年録音   DYNAMIC CDS 7699/1-2

イタリア出身のギター奏者。過去にも何人かがギター編を録音しているが大半は多重録音かデュオであった。(6弦しかない楽器としてのギターという楽器の制約)
サルチートは、曲の真髄を損なわない様残すべき音と捨てても影響の少ない音を徹底吟味し編曲した。
また使用ギターも新たに製作を依頼し、作品の響きを十分に表現できるよう配慮した。

 

10.ジャック・ルーシェ・トリオ 【ピアノトリオ】 1999年録音 TELARC CD-83479

フランス出身のピアニスト(1934~)。パリ国立高等音楽・舞踊学校卒業後世界各地を回り種々の音楽を体験。
1959年にバッハをジャズ風に解釈し演奏した「プレイ・バッハ#1~5」をリリース、6百万枚を超えるヒットとなった。
以降もバッハを中心にバロック(ビバルディ―、ヘンデル)、ベートーベン、ドビッシー等多くのクラシック曲をピアノトリオで発表している。
ピアノ:ジャック・ルーシェ ドラム:アンドレ・アルピノ
ベース:ベノワ・デュノワイエ・デ・セゴンザック 

11.ジョン&ミリヤナ・ルイス【ピアノ、チェンバロ】 1986年録音 PHILIPS 32JD-10001

MJQのピアニスト、ジョン・ルイスが妻のミリヤナと組んで演奏。
MJQとしてもバッハをテーマとしたアルバムを発表しているが、ジョンは独自にバッハに取り組み「平均律クラヴィーア曲集」等をリリース。
本CDでは、独身時代ピアノ演奏家であった妻にチェンバロを、自身はピアノを受け持ち、変奏毎にピアノ単独、チェンバロ単独、両者の二重奏にアレンジしている。録音場所にも拘りニューヨーク・アセンション教会にて収録されている。

 

※日本人演奏によるCD:高橋悠治 曽根麻矢子 横山幸雄 熊本マリ 鈴木雅明(チェンバロ)
※ゴルトべルク変奏曲は上記の他にも、アコーディオン、マリンバ、ビオラダガンバ(6台)、サキソフォン(4本)など多種の楽器にて演奏録音されている。
※ジャズピアニストのキース・ジャレットはチェンバロ

 以 上

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